アニマルウェルフェアを学ぶ【月刊ニュースがわかる6月号】

スクールエコノミスト2025 WEB【桐朋中学校編】

スクールエコノミストは、私立中高一貫校の【最先進教育】の紹介を目的とした「12歳の学習デザインガイド」。今回は桐朋中学校を紹介します。

困難に直面しても負けない生徒たち。知恵と創意工夫で逆境を乗り越えろ!

<注目ポイント>

①自由闊達な環境の中で、それぞれの興味関心のある物事に果敢に挑戦。

②各自の目標に向かい自主的に考え工夫し努力を重ねることを促す指導。

③自分のやりたいことを素直に伝えられる教師と生徒の関係性。

国内外で活躍を果たす桐朋陸上競技部

 「自主・敬愛・勤労」を教育目標に掲げ、生徒一人ひとりの自主性を養うことを実践してきた桐朋中高。自ら判断し行動することが求められ、一人ひとりの個性を互いが尊重する気風も溢れる。生徒たちは自由な環境の中で、各自の興味関心のある物事に果敢に挑戦している。

 難関国公私立大や医学部などへの合格者を多数輩出する進学校として知られる同校だが、部活動においても全国レベルでの活躍を見せている。特に近年は陸上競技部の活躍が顕著で、昨年は24年ぶりに卒業生がオリンピアンとなった。しかし同校には運動能力の高い生徒を集める制度はない。陸上で活躍する生徒たちも一般入試を突破し、在学中も一定以上の学力を身につけることが求められる、まさに文武両道を体現した生徒たちなのだ。

 陸上競技部では、スポーツ強豪校のような画一的なトレーニングはしないのも特徴だ。日本一や世界レベルの成績を目標とする部員ばかりではなく、それぞれの目標に向かって各自が練習に取り組み、それを部員同士が理解し合い、互いのスタンスを受け入れている。顧問の外堀宏幸教諭も、できる限り個別に対応して練習メニューを組むが、自主的にトレーニングに取り組む余白は残し、生徒が指導者の意見を鵜呑みにせず、目標に向けて自ら考え工夫し努力を積み重ねることを促しているという。

 ここからは卒業生3名の部活動や勉強との両立の様子などを紹介していこう。

制限された条件下での奮起

 慶應義塾大学環境情報学部に進学した豊田兼さんは400mハードルでパリオリンピックに出場を果たしたオリンピアンだ。桐朋小学校時代から陸上のクラブチームに所属していた豊田さんだが、実は高2までは同世代でトップ争いをしたり、記録を残すような特別な選手ではなかったという。転機となったのは高3時の世界を席巻したコロナ禍での経験だった。「当時は競技場がすべて閉鎖され学校にも立ち入れず、練習する場所もありません。体力維持のために自宅近くの公園を転々とし、遊具を活用して独自のトレーニングを続けました。それでもインターハイという高校最大の目標がなくなったのは大きく、モチベーションを保つのが難しい時期でした」と豊田さん。その時は、思い切って一旦練習を止めて陸上からあえて距離をとった。そして「陸上が恋しくなった時に再開し、またとことん向き合うことで気持ちの切り変えができましたし、より集中できたと思います」と語る。

 そんな豊田さんにチャンスが訪れたのが2020年8月。国際大会ゴールデングランプリの開催だった。各競技に全国の高校生から1〜2名、トップアスリートと一緒に競える特別枠が設けられたのだ。「これは大きなモチベーションになりました。そこからは外部の競技場で、先生に来ていただいたり、メールでのやり取りをしながら練習しました。同期は引退して受験勉強を始めていましたから、一人で練習する期間が長かったですね」と豊田さん。そんな孤独な練習を積み重ねた結果、無事ゴールデングランプリに出場し、自己ベストをマーク。このことが「もっと上を目指したい」という気持ちを高め、大学での国際大会優勝、オリンピック出場の快挙へと繋がった。苦しかったコロナ禍での経験も「恵まれた環境で練習する今」が当たり前ではないのだと感謝する気持ちにつながったという。

 大学では、スポーツを科学的・力学的な視点で捉え、競技力の向上、コーチング支援を科学的な知見を元に行なうスポーツ科学を研究、卒論を作成して今春卒業した。

左から高橋さん、吉澤さん、豊田さん