スクールエコノミストは、私立中高一貫校の【最先進教育】の紹介を目的とした「12歳の学習デザインガイド」。今回は普連土学園中学校を紹介します。

日本で唯一のフレンド派の学校。“生き方そのもので語る” 成熟した大人の育成
<注目ポイント>
①キリスト教フレンド派の「自由・平等・対話・平和主義」を基軸とする全人教育。
②カンボジアの現状を直接視察し、支援の意味を考える海外研修。
③生徒の向学心と意欲をかきたてる関係大学との濃密な交流。
〈内なる光〉を感受し、他者の声を聴く
『武士道』の著者で国際連盟事務次長も務めた新渡戸稲造と近代日本を代表する思想家内村鑑三がアメリカに留学中、キリスト教フレンド派の人々に進言し、女子教育を目的として創立された普連土学園。フレンド派は歴史的平和教会の一つであり、様々な平和運動や奉仕活動に従事してきた。1947年にはそれらの活動の功績が認められ、アメリカ・フレンズ奉仕団とイギリス・フレンズ協議会がノーベル平和賞を受賞している。同校はフレンド派の創始者であるジョージ・フォックスの言葉“Let Your Lives Speak.(自らの生き方をもって語りなさい)”をモットーに「自由・平等・平和・対話」を基軸としている。
毎朝の礼拝にもフレンド派らしさがある。中でも毎週水曜日は言葉を発することなく過ごす「沈黙の礼拝」で静かに自己と向き合う。キリスト教で重んじられる教義の一つである三位一体論でいう〈聖霊〉を、フレンド派では〈内なる光〉と言い換えている。同校の青木直人校長は語る。「〈内なる光〉は一人ひとりの中に内在しており、教会という権威を通さずとも、神様は各人に直接語りかけている。 それを聴くために〈沈黙〉を大切にしており、フレンド派の信仰の本質でもあります」。このことは、自己主張よりもまずは他者の声に耳を傾ける姿勢を育む同校の教育の特色としても表れている。
ほかにも、礼拝では生徒や教員が自由なテーマで考えていること、感じていることを話す場面がある。「他者の話を聞いて多様な考え方に触れ、そこから気づきを得る。自分の世界が広がっていく。これこそが学びの原点だと考えています」と、青木校長は言う。
価値観を揺さぶる海外研修
2023年にはフレンド派らしい教えといえる「自らの生き方そのもので語れ」を体現するかのような異文化交流研修がスタートしている。同校は長年にわたってカンボジアで地雷撤去活動を行うアキラー氏(カンボジア政府認可NGO団体・CSHD)を支援する献金を行ってきたが、生徒たちの願いもあり、現地に直接献金を届ける「カンボジア アキラー プロジェクト」と名付けられた研修が実現。地雷撤去の現状を視察するだけでなく、「タイからカンボジアに陸路で国境を越えたい」「現地の学校を訪問したい」など、生徒が希望する探求や体験を盛り込んだフレキシブルなプログラムとなっている。希望者を対象としているが、参加にあたっては面談と論文で選考が行われる。2024年はチャレンジ精神旺盛な4人の高2生が参加した。
現地では地雷の撤去現場も訪れる。地雷探知機の説明を受けたのち、実際に生徒自らが実機を手にしてデモンストレーションを体験した。さらには防護服を着て地雷原に赴き、安全を確保した上で地雷や不発弾を間近に見て起爆装置のスイッチを押して爆破処理を行うなど、内戦時代の負の遺産によって住民がさらされている危険と隣り合わせの現状を体感した。
内戦がもたらした弊害はまだある。土壌が汚染され、今もなお通常の農耕が困難な土地が多くあるが、この状況を打破するため、幼い頃に内戦の影響で両親が育てられず、アキラー氏が養子として迎えた女性がプノンペン大学で農業を学び、水耕栽培の実験に着手。彼女が運営している実験農場には、カンボジア中の農家が水耕栽培を学ぶための研修に訪れる。その農場見学の機会も設けられた。
この体験がきっかけとなり、新たな目標を見つけた生徒の一人は、土壌汚染問題に取り組みたいと考え、帰国後、彼女を中心に東京農業大学の土壌学研究室を訪問することになった。将来、環境保全に携わる仕事もこの生徒の目標の一つになった。
様々な経験を通じて現地の人々と日々交流を重ねるうち、生徒の心にある思いが芽生えた。「『この研修に行きたいと考えたとき、家族や友人が否定的な反応をしたこともあったけれど、カンボジアの人と接するうち、必ずしも経済的な裕福が精神的な幸せとイコールではないと気づいた』と話してくれた生徒がいました」と、青木校長は語る。

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