スクールエコノミストは、私立中高一貫校の【最先進教育】の紹介を目的とした「12歳の学習デザインガイド」。今回は多摩大学目黒中学校を紹介します。

海外プログラムは9か国に広がり、インドでは「人生観も変わる」体験をする
<注目ポイント>
①元キャリア官僚の校長が掲げる「目的意識と遂行力」の育成。
②アジアの現実から学ぶ体験型海外研修。
③35か国の留学生との交流で世界が身近に
豊富な国際経験から導く確固たる教育理念
元・経済産業省のキャリア官僚として、貿易、地域振興、宇宙産業育成、特許行政、資源エネルギー政策などの業務に携わった異色の経歴を持つ田村嘉浩校長。在職中、アメリカとロシアの大学に留学した際、各国から集まったエリートたちの高い目的意識と遂行力を目の当たりにする一方で、日本の留学生は明確な目的意識を持つ学生が少なく、強い危機感を抱いたという。この経験から田村校長は「目的意識を持ち、目標に向かって研鑽を積める生徒を育てる」という教育目標を掲げ、学校教育に尽力することを決意した。

貧困の実態から社会の本質に迫る
国際教育に力を入れている同校の海外プログラムは、昨年新たにベトナムやインド、インドネシアが加わり、計9か国に広がった。中でもベトナム修学旅行とインドスタディツアーは特筆すべき取り組みだ。
高校2年次に実施されるベトナム修学旅行では、戦跡や戦争博物館の見学、ベトナム戦争時に米軍が散布した枯葉剤の影響で結合双生児として生まれたグエン・ドクさんの講話を通じて平和について深く考察する。「現在のアメリカをどう見ているか」など、生徒たちは戦争と平和について鋭い質問を投げかけ、対話を通じて平和の尊さを実感していく。また、日本企業の駐在員との懇談では「海外で働くこと」の醍醐味や課題について、具体的な体験談に熱心に耳を傾けていた。
夏休み中に希望者向けに実施されたインドスタディツアーには、高校1・2年生計17名が参加。貧困の現実に迫るこの研修は、生徒たちの世界観を大きく変えることとなった。メインストリートの近代的な町並みのすぐ裏で出会った物乞いの子どもたちの姿に衝撃を受けながらも、生徒たちは単なる同情で終わらせることなく、現地の人々への丹念なインタビューを重ねていく。その過程で、本当に貧しい人々はペットボトル自体が貴重な生活用品となるため欲しがるのに対し、身なりの整った物乞いの人々はペットボトルに関心を示さない現実が見えてきた。こうした綿密な観察を通じて、生徒たちは貧困の実態により深く迫っていったのだ。
民営のアフタースクールでの体験は、さらに深い気づきをもたらした。将来の夢を尋ねると、答えの多くが「医師」「教員」「警察官」といったわずか数種類の職業しか知らず、そもそも文字の読めない子どもが多いという現実に直面する。知識や情報から切り離されている状況が、将来の選択肢をも限定してしまうという気づきを得た生徒たち。その解決には「教育」が鍵となるという仮説を導き出した。
「こうした問題意識は、大学進学後の研究テーマにもなります。実際の体験から導き出された仮説を検証し、解決策を探る。そしてアジアの課題を日本の問題として捉え、より深く研究を進めていく。そんな探究心こそが大切」と田村校長は語る。
帰国後、保護者からは「家族との海外旅行でも、現地の人々に積極的に話しかけていた」「人生観が変わった」という声が寄せられるなど、以前よりたくましい姿を見せるようになったという。こうした変化からも、この研修の教育的価値の高さがうかがえる。
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