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女子力をアップするにはどうすればいい? <子どもの哲学>

 誰もが一度は抱いたことのあるような問いについて、4人の哲学者が、子どもたちとともに考え進めていくという形で書かれた『子どもの哲学 考えることをはじめた君へ』(毎日新聞出版刊)。大人も子どももいっしょになって、ゆっくりと考えてみませんか。本書から一部をご紹介します。本書のもとになった「てつがくカフェ」は、毎日小学生新聞で毎週木曜日に連載中です。

共通の特徴がないから方法がない……ツチヤくん

 こういうことが気になるってことは、あなたのまわりには「女子力が高い」と言われている人が何人かいるのかな? それで自分もそうなりたいとか? もしそうなら、あなたが「女子力が高いなあ」と思う人たちを何人か思い浮かべてみて。そして、その人たち全員に共通する特徴があるかどうかを考えてみてほしい――何か見つかったかな? ぼんやりとした共通点はあるかもしれないけれど、それをきちんと言葉で説明することはできるかな?

 じつは、僕は「女子力が高い」と言われている人に共通する特徴なんてないんじゃないかと疑がっている。というのも「女子力」というのは、たまたまある特定の会話の流れの中で、そのときなんとなくみんなが「女子っぽい」と感じたふるまいや行動を、なんとなくのノリでそう呼んでいるだけの言葉にすぎないように感じているからだ。

 たとえば「計算力」だったら、どういう力を意味しているかははっきりしているし、その力の有無を測定する客観的な方法(たとえば計算テストなど)もある。だから、その力をアップさせるにはどうしたらいいかを考える手がかりが少なからずあるのだけれど、「女子力」という言葉に関しては、そもそもそれが何を意味しているのかさえ、客観的に定まっていないように思えるんだ。だとしたら、それをアップさせる方法も考えようがないんじゃないかと僕は思うんだけど、どうだろう?

決めているのは誰?……ムラセくん 

 女子力ってなんだろう。文字から考えてみると、女性だけに特に求められる能力のことかな。でも、男性は関係なくて、女性にだけ求められるような能力って、ほんとうにあるのかな。

 女子力を重視する背景には、女の人には女っぽさが、男の人には男っぽさが求められているということがあると思う。なぜか、赤いランドセルは女の子のものだし、男の人はスカートをはかない。言葉にも、男言葉や女言葉なんていうものがある。こう言えばみんながなんとなく同じものを思い浮かべることができるくらいには、男っぽさや女っぽさのイメージは共有されているし、とても重要なものだと多くの人が思っている。

 だけど、それにしたがわなくてはいけない理由はよくわからない。むしろ、男女平等が正しいのなら、したがわないほうがいいんじゃないかとさえ思えてくる。

 だとすると、ほんとうはよくわからないけれど社会のなかで重視されている「女っぽさ」なるものを読みとってそれに合わせることが、女子力アップの方法になりそうだ。でも、この「〜っぽさ」を決めているのはいったい何(誰?)なんだろう。むかしからの伝統? テレビや新聞、雑誌? まわりにいる人たち? これがわかれば、もっと効率的な女子力アップの道も見えてきそうだね。

素敵な人ってどんな人?……ゴードさん

 女子力ってどんなものなのか、「女子力をアップしたい」と思っている人はちゃんとわかっているんじゃないかな。それはきっと、客観的に一つに決まらなくてもよくて、ただ自分がイメージしている、素敵な女子になりたいだけだよ。ほんとうは、男も女も関係ないかもしれないね。誰だって、素敵な人になって、自分でも自分を大好きになりたいし、みんなからも好かれる人気者になりたいって、思うでしょ。

 でも、なりたい自分になるのって、どうしてこんなに難しくて苦しいんだろう。優しくなりたいと思っても、なかなか優しくはなれない。おしゃれになりたいと思っても、何を着たらいいかわからない。素敵な人の真似をしてみても、自分はその人じゃないからなんだかうまくいかないし、あんまり真似ばかりしたら嫌われちゃう。だけど、その素敵な人は、全然無理しているようには見えなくて、生まれつき自然に素敵なんじゃないかと思えてくる。そんなのって、ずるいよね。私もあの人みたいに、いつも素敵でいられる身体と能力がほしい!

 でもね、そんな気持ちになってしまうときには、やっぱり考えがどこかで間違ってしまっているんだ。私は、誰かが「素敵だ」と感じられることと、その人がある能力や技術をもっていることは、関係がないんだと思う。だから、素敵な人になろうとして能力や技術を身につけようとすればするほど、なんだか「素敵な人」からずれていってしまうことがある。

 それなら、誰かのことを「素敵だな」と思うときには、相手の何を見て、そう感じているんだろうね。もう一度、冷静に考えてみようよ。

まとめ 型にはまらずにゆこう……コーノさん

 三人とも、女子力アップの方法について答える前に、そもそも「女子力」って何かな、誰がそれを決めるのかな、女子力をアップしたいのはなぜかなって、聞いているよね。「女子力」って流行りの言葉で、きっとあと何年もすれば使われなくなっちゃうし、そのときに誰がどんな意味で使っていたのかも、何年も経たないうちに、あやふやになってしまうと思う。三人ともそれをわかっていて、基本的には、「女子力」という流行りの言葉に振り回されちゃダメだって言っているのだと思う。

 女の子は、小さなころからいろいろと「女の子はこうしなきゃダメだ」「こういう服装をしなければいけない」「こういう子がいい女の子だ」って型にはめて育てられてしまうことが多いんじゃないかな。男の子も男の子で「男はこうでなくては男らしくない」「こういう態度が男っぽくてかっこいい」って型にはめられることがある。「女子力」というのも、そういう型にはめて人間を狭くしてしまう考え方に思えるんだ。

 「女子力」って言葉は、友だちが使っているんじゃないかな。きっとお母さんや先生は、そういう言葉を使わない。友だちが、自分のことを「女子力」が高いと信じていて、君に自分の真似をしてほしいから、そんなことを言っているんだよ。そういう子は、ほんとうの友だちじゃない。だから、自分が自分のことを素敵だって思えるようなことをして、そういう格好をすればいいんじゃないかな。友だちに振り回されないほうがいいよ。
「てつがくカフェ」は毎日小学生新聞で毎週木曜日に連載中

<4人の哲学者をご紹介>

コーノくん 河野哲也(こうの・てつや)

慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程修了。専門は哲学・倫理学・教育哲学。現在、立教大学文学部教育学科教授。NPO法人「こども哲学おとな哲学アーダコーダ」(副代表理事)などの活動を通して哲学の自由さ、面白さを広めている。

ツチヤくん 土屋陽介(つちや・ようすけ)

千葉大学大学院社会文化科学研究科博士課程満期退学。博士(教育学)(立教大学)。専門は子どもの哲学(P4C)・応用哲学・現代哲学。現在、開智国際大学教育学部准教授。

ムラセくん 村瀬智之(むらせ・ともゆき)

千葉大学大学院人文社会科学研究科修了。博士(文学)。専門は現代哲学・哲学教育。現在、東京工業高等専門学校一般教育科准教授。

ゴードさん 神戸和佳子(ごうど・わかこ)

東京大学大学院教育学研究科博士課程満期退学。専門は哲学教育。現在、長野県立大学ソーシャル・イノベーション研究科講師。中学校・高等学校等での対話的な哲学の授業のほか、哲学カフェ、哲学相談などの実践・研究も行っている。

 

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