小麦を海外から買ったり、自動車を海外へ売ったりと、私たちの暮らしや経済は、貿易がないと成り立ちません。しかし、アメリカのトランプ政権は、各国からの輸入品への関税を引き上げ、貿易や世界経済への影響が心配されています。そもそも、関税の役割とは、何なのでしょうか。
関税は、海外から買う食料品や自動車などの商品(輸入品)にかけられる税金です。日本では、外国から商品を輸入した者は、日本政府に関税を納めます。輸入者が払った関税は最終的に、消費者が買う時に支払う商品価格にプラスされます。
その役割には、▽税収を国の財源にする▽国内産業の保護▽相手国が貿易で損害を生じさせた場合の制裁機能――があります。
国内産業の保護とは、関税をかけることで輸入品の価格が上がるため、それらに対する価格競争で国産品を有利にできることです。例えば、日本政府は輸入牛肉に38.5%の関税をかけて、国産牛肉を守っています。コメについては無関税で輸入しますが、民間事業者による輸入には1キログラム当たり341円の関税がかかる独自ルールを設けています。
一方、制裁機能とは、商品を国内よりも低い価格で輸出する不当廉売(ダンピング)をしたり、輸出を増やすため企業へ補助金を出して輸入国の産業に損害を与えたりする国に対し、高い関税をかけてこらしめることです。
世界的な不況「世界恐慌」が起きていた1930年、アメリカは自国産業を守ろうと、輸入品に高い関税をかける法律を作りました。これを保護主義政策といいます。
イギリスやフランスも、アメリカなどに対抗して高関税をかけました。また主要国は、植民地や領土の間で関税を引き下げる一方、その地域以外には高い関税をかける「ブロック経済圏」を作っていきました。このため世界の自由貿易は妨げられ、主要75か国の総輸入は4割以下にまで減ったといいます(経済産業省「通商白書2019」から)。そして世界的に不況が長引いて各国の政治的・経済的な対立が強まり、第二次世界大戦が起きた理由の一つになったともいわれます。
その反省から、戦後の1947年に生まれたのが、貿易の自由化を進める関税貿易一般協定(GATT)です。その後95年に、各国間の貿易紛争を解決する機能も備えた世界貿易機関(WTO)に引き継がれました。
アメリカのトランプ大統領は、輸入額が輸出額を上回る貿易赤字が「アメリカの産業を痛めつけ、雇用を奪っている」と主張しています。関税を、▽アメリカの製造業の復活▽2国間交渉の取引材料にする▽国家の収入増加――という三つの目標を同時にかなえる「万能薬」と考えているようです。
トランプさんは「適切に使えば、関税は非常に強力な武器だ。経済問題以外のことでも成果が得られる」と話し、1月の大統領就任直後からメキシコとカナダに不法移民・麻薬密輸対策を要求。また中国に対しても麻薬流入対策が不十分だとして、これら3か国に、もともとかけている関税にプラスする「追加関税」をかけました。
また、「高関税が嫌ならアメリカに工場移転を」と主張し、全ての国から輸入される鉄鋼、自動車などに25%の追加関税をかけました。さらに全世界に一律10%の関税をかけ、貿易赤字の相手国・地域には「相互関税」を発表しました。相互関税は最大50%(日本には24%)までプラスする内容です。

日産自動車九州苅田工場に隣接する港湾エリアに並ぶ、完成した自動車。奥に見えるのは輸出車の運搬船=福岡県苅田町で4月10日
トランプ政権の関税強化で世界経済の先行きが不安になり、世界中で株価が下落しました。25%の自動車関税が発表された時は、アメリカ大手自動車3社の株価が下落しました。カナダとメキシコにも工場があるため影響が心配されることや、輸入部品の値上がりによって自動車価格を上げると売れなくなる恐れがあるからです。
また相互関税を強行した4月9日、市場では国債(国が借金のため発行する)、アメリカドル、株式が同時に売られる「トリプル安」が起きました。このためトランプ政権は相互関税を90日間停止しました。国内では、物価上昇(インフレ)が再び起きるとの見方もあります。アメリカは安い日用品をたくさん輸入していますが、高い関税がかけられれば、店は商品を値上げせざるを得ないからです。
一方、困った各国は関税を減らしてもらおうとアメリカと話し合いを始め、日本は赤沢亮正経済再生担当大臣が交渉にあたっています。全ての関税見直しを求めていますが、アメリカが応じる見通しは立っていません。

トランプ政権の対日関税引き上げを巡る2回目の交渉で、協議前に握手する日本の赤沢亮正経済再生担当大臣(右)とベッセント・アメリカ財務長官ら=アメリカ・ワシントンで(代表撮影)
アメリカは戦後、国際協調のために自由貿易を進め、経済が成長してきました。一方、トランプさんは第1次政権時代から、関税による保護主義政策へ方針を変えました。背景には貿易赤字を抱えてきたことや、安い海外製品により製造業が衰えたことがあります。ただ、それは各国も同じで、保護したい国内産業があります。またWTOが、特に中国の不公正な貿易慣行に有効策を打てていないなどの課題が出てきました。
そんな中、日本は12か国で自由貿易圏をつくる「包括的及び先進的な環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)」などで役割を果たしています。交渉からアメリカは離脱し、中国は加盟していませんが、保護主義の流れに歯止めをかけることが期待されます。トランプさんに対し、多国間の協力枠組みを守ることが重要だと考えられています。
(2025年5月21日 毎日小学生新聞より)
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