「フェアトレード(公平・公正な貿易)」のことを知っていますか? モノを買うとき、どんな基準で選んでいますか? 最近は、バレンタインデーのチョコレートをきっかけに、フェアトレードについて知ったという人も増えています。フェアトレードにはどんな商品があるのか、どこで作られ、どんな基準があるのかなど、そのしくみを知りたいんジャーが調べてきました。【木谷朋子】
◇フェアトレードって何?
チョコレートの原料のカカオや、バナナ、コーヒー、紅茶、衣類など、私たちの生活に身近な食料品や日用品の多くは、東南アジアやアフリカ、中央・南アメリカなどの発展途上国を中心に作られています。

モノを買う時に値段が低いと「安く買えてうれしい」と思うかもしれません。でもその裏では、モノを安くするために、生産国の労働者たちが安い賃金で働かされ、十分な生活ができずにいる場合があります。中には、子どもたちが学校へ行けずに働かされている生産地もあります。私たちが発展途上国で作られたモノを安く買えるのには、そうした国の人々が犠牲になっている面があるのです。
これらの問題を解決するために生まれたのが「フェアトレード」です。安心して生産ができるように、▽長期的な取引を約束する▽適正な値段で買い取る▽代金を前払いするなどして資金援助する▽農薬などで環境が破壊されないようにする▽技術力が付くよう支援する――などの対応をしているのがポイントです。発展途上国の農産物や工芸品を、労働に見合った値段で買い続けることで、生産者の生活が安定して経済的に自立できるようにし、労働環境の改善につなげるしくみです。
◇いつ始まったの?
第二次世界大戦後にアメリカの国際協力団体のNGO(非政府組織)が、プエルトリコという地域の女性たちの生活を助けるために、手工芸品を購入・販売したのがきっかけです。1950年代には、イギリスのNGO・オックスファムが手工芸品の販売を始め、60年代にはヨーロッパで市民運動として広まりました。
80年代後半には日本でも少しずつ知られるようになりましたが、積極的に企業が取り組み始めたのは2000年ごろからです。日本で広まったのは、15年9月の国際連合サミットで決まった「持続可能な開発目標(SDGs)」の17項目が、フェアトレードと大きく関わっていることもあります。
1996年から世界フェアトレード連盟(WFTO)に加盟し、フェアトレード商品を約30年作り続けている「ピープルツリー」(フェアトレードカンパニー)の広報、鈴木啓美さんは「フェアトレードは、みんなが幸せになる社会を目的にした社会事業です。貧困問題と環境問題を、ビジネスを通して解決しようとする活動で、寄付ではありません。モノを生産して販売するビジネスそのものが、人権や環境を考えた方法で進められています」といいます。
◇どんな基準があるの?
フェアトレードの考え方が広まると、基準の統一やフェアトレード基準に達していると証明するラベルが必要となりました。現在、フェアトレード商品だとわかるラベルには数種類ありますが、「国際フェアトレード認証ラベル」と「世界フェアトレード連盟(WFTO)保証ラベル」の2種類が代表的です。
「国際フェアトレード認証ラベル」は、1997年に国際フェアトレードラベル機構(FLO)によって定められた、主に製品に付けられる認証ラベルです。日本ではフェアトレード・ラベル・ジャパンがラベルの承認などをしています。労働者に適正な賃金を支払う▽安全で衛生的な労働環境▽児童労働の禁止▽農薬を適正に使う――など経済・社会・環境の三つの基準をクリアした製品が、フェアトレード商品として認定されます。
もう一つの「世界フェアトレード連盟(WFTO)保証ラベル」は、この機関が定めた10原則を守り、団体そのものの活動がフェアトレードの基準を満たしていることを保証しています。そこで生産された製品はすべてラベル付けが可能とされます。89年に発足したWFTOには世界70か国370団体以上が加盟し、日本ではピープルツリーがメンバーとして参加しています。
◇どんな商品があるの?
「国際フェアトレード認証ラベル」は、コーヒー、バナナ、お茶、果物、野菜、砂糖、コットン(綿)など3万7000点以上に付けられ、世界140か国以上で販売されています。日本では、キーコーヒーやイオン、日本生活協働組合連合会(コープ)など60以上の会社などの製品に付けられています。
もう一つの「世界フェアトレード連盟保証ラベル」の付いた製品を作るピープルツリーの鈴木さんは「私たちの会社は、農産物よりもファッション(衣料品)の方が、より多くの雇用を生み出せると考え、30年前から衣料品の商品企画に力を入れ始めました。デザインなどは日本人に合うものを独自に考え、できるだけその地方で取れる自然素材を使った手仕事によるモノ作りで、途上国の自立を支援しています」と話します。アジア、アフリカ、中央・南アメリカなど18か国約145団体と一緒に、衣料品やアクセサリー、食品、雑貨などを開発・販売しているそうです。
◇近年の動きは?
多くのフェアトレード商品や会社・団体が増えた一方で、ラベル認証はなくても、独自のルートで生産者と直接取引をして生産者を支援する会社や団体が出てきました。このような取引を「ダイレクトトレード」と呼びます。
大手菓子メーカー・明治の広報、大出祥弘さんは「私たちの会社はフェアトレードの認証はありませんが、社員直接生産地へ足を運び、明治カカオサポートという独自の支援を行っている地域で生産された『明治サステナブルカカオ豆』を使ってチョコレートを作っています」といいます。
ダイレクトトレードも、生産者の生活環境や労働状況、流通などを確認した上で価格を交渉して購入するなど、フェアトレードの考え方と共通する点があります。ただ、「フェアトレード」と呼ぶには、認証団体側が設けた基準をクリアする必要があるのです。
たくさんのモノや情報があふれている今、消費者の私たちは、認証ラベルのあるなしに加えて、生産者の生活や労働環境を考えている会社かどうかを確認することも、商品を買う場合に意味があるといえそうです。(2025年02月12日毎日小学生新聞より)