平和の番人 国連の80年【月刊ニュースがわかる4月号】

今年70年 時代と国を超えて愛される「ミッフィー/うさこちゃん」【ニュース知りたいんジャー】

絵本作家のディック・ブルーナさんが生み出したキャラクター「ミッフィー」(うさこちゃん)の最初の絵本は1955年に発表され、今年で70年です。シンプルな線と色で、世界中で長い間愛されてきたミッフィーの秘密を紹介します。【田嶋夏希】


 ◇姿が変わってきているよ?


 ウサギの女の子のミッフィー(うさこちゃん)が出てくる最初の絵本「ちいさなうさこちゃん」「うさこちゃんとどうぶつえん」は1955年にオランダで出版されました。今と比べて、ミッフィー(うさこちゃん)の耳の先は丸く、目も小さく、今おなじみのものより手描きならではの素朴な輪郭が特徴です。
 70年の間に、ミッフィー(うさこちゃん)の形は変わっています。2000年代には線が太くなっていて、耳は短く先はより丸くなり、全体に占める洋服の割合が大きくなりました。ブルーナさんが常によりよい形になるよう描き続けてきた結果、時代によって姿が変わってきたのです。


 ◇作者はどんな人?

 作者のディック・ブルーナさんは1927年に、オランダで出版社を経営する両親のもとに生まれました。豊かな自然の中で伸び伸びと育ちます。しかし青年時代には、第二次世界大戦でオランダがドイツに占領されたため、ほとんど外に出られない生活がおよそ2年間続きました。
 戦後は51年に父の経営する会社にグラフィックデザイナーとして入社し、本やポスターのデザインを担当しました。

オランダの絵本作家ディック・ブルーナさん


 ブルーナさんに大きな影響を与えたのが、フランスの画家のアンリ・マティスです。紙を切って作ったマティスの切り絵のように、シンプルな線とカラフルな色を組み合わせて作品にすることを目指しました。2017年に亡くなるまでに120作以上の絵本を作りました。


 ◇うさこちゃん?ミッフィー? どうして名前が二つあるの


 オランダ語では「ナインチェ・プラウス」という名前です。これは「ふわふわの子ウサギ」という意味です。この本が英語に翻訳される時に「ミッフィー」という名前がつけられました。このため、ヨーロッパやアジア、アフリカなどの多くの国で「ミッフィー」という名前で知られています。
 日本では1964年に出版社の福音館書店(本社・東京都)が日本語版を出す時に、翻訳者の石井桃子さんが「うさこちゃん」と名付けました。ただ、同じ主人公ですが、福音館書店の絵本は「うさこちゃん」を、講談社の絵本は「ミッフィー」を名前として使っています。キャラクターグッズやテレビ番組では、ミッフィーの名前が広く使われています。


 ◇作品にはどんな特徴があるの?


 オレたちも今回だけ「ブルーナカラー」に近づけてみたぞ
 赤(少し黄色が入ったオレンジに近い色)、青、黄、緑、灰、茶色を基本的に使い、これをブルーナカラーと呼んでいます。絵本の主な読者である0~6歳の子どもたちが、はっきりとした強い色と好むためです。
 また、ミッフィー(うさこちゃん)の顔は、二つの点と×印でできていて、とてもシンプルです。その目的についてブルーナさんは、以前の毎日新聞のインタビューで「読む人が自分の想像を自由にふくらませるものに」と話しています。
 でも、シンプルだからといって簡単に描けるわけではありません。ブルーナさんは「小さな目と口だけでさまざまな感情を表現すること、それがどんなに難しいことか、おわかりでしょう?」とも話しています。納得がいくまでに100回もデッサン(下絵描き)をくり返したり、下絵をなぞる時も、一気に描かず、少しずつ少しずつ筆を進めたりします。
 ミッフィー(うさこちゃん)は、作品によって顔の輪郭や目の表情などがすべて違います。福音館書店には、読者から「うさこちゃんの年齢が違って見える」という声が届くこともあるそうです。編集部の住吉輝彦さんは「ブルーナさんがうさこちゃんをキャラクターとしてでなく、絵本の登場人物として描いていたからこそだと思います」と話します。ちなみにブルーナさん自身も、うさこちゃんの年齢は作品によって違うと思って描いていたそうです。


 ◇ずっと人気なのはどうして?


 福音館書店が翻訳して出版する「うさこちゃん」シリーズは、今までに1039万冊以上が刊行されています。この理由について、住吉さんは、デザイン、テーマ、翻訳の三つの理由を挙げます。
 全ての線がフリーハンド(手描き)で描かれるブルーナさんの絵本には「独特の温かみやぬくもりがあると思います」と住吉さんは言います。これまで取り上げられてきたテーマは、「うみ」「おとまり」など子どもたちに身近なものから「まほう」まで幅広いですが、「シンプルなデザインで描かれているため、時代を超えて読者に受け入れられている」と見ています。
 ブルーナさんの絵本が、場所も選ばず受け入れられてきたことは、世界50か国以上で翻訳されていることからも分かります。翻訳には、日本語版の最初の石井桃子さんをはじめとする翻訳者の人たちの苦労があります。原作のオランダ語の持つ魅力が、1ページにつき4行という短さで日本の読者にも伝わるよう、何度も文字を数えながら声に出したり、時には録音して聞いてみたりして検討を重ねているそうです。
 そのおかげで「とても美しい言葉で読みやすい本になっています。ぜひ声に出して読んでみていただきたいです」と住吉さんは話します。(2025年02月05日毎日小学生新聞より)