【ニュースがわかる2024年6月号】巻頭特集は地震大国ニッポン 被害を減らすために

お彼岸ってなあに?【教えてお坊さん】

 子どもにきかれてドキッとする前に

しばられ地蔵で有名な東京都葛飾区の業平山南蔵院副住職で、臨床心理士でもある日吉円順さんに素朴な疑問をぶつける【教えてお坊さん】。今回は「お彼岸」について話を聞きました。

 今年の夏も暑かったですね。

 夏休みに田舎に行くと、おじいさんやおばあさんが団扇(うちわ)をあおぎながら、「いまは暑いけど、お彼岸の頃には涼しくなるからもう少しの辛抱よ。」と、よく話していたものです。

『暑さ寒さも彼岸(ひがん)まで』

 このことわざにもあるとおり、不思議とお彼岸あたりになると、これまでの暑さや寒さが嘘のように気温が落ち着いてきます。たしかに9月頃になると、雨の日も増え、あの夏の灼熱の暑さが嘘のようになくなってきますし、3月頃になると、冬の寒さが和らぎ、太陽の温もりが戻ってきます。先人達の言葉は、生活に根付いた知恵の言葉だということがわかりますね。

さて、みなさんは「お彼岸(ひがん)」がどういうものか、ご存じですか?

「お彼岸(ひがん)」は、「(とう)彼岸(ひがん)」ともいい、サンスクリット語の「パーラミター/Pāramitā(()()()())」の漢訳語です。簡単に言うと、「みんなの仏道修行週間」のようなものです。このように聞くと、季節ごとにある「交通安全週間」みたいで面白いですね。「みんなで仏教の知恵を学んで日常に活かしてみよう!」という期間です。

 「お彼岸(ひがん)」は、仏道修行の週間なので、春は春分の日、秋は秋分の日を中日として一週間(春分の日と前後3日の一週間、秋のお彼岸は秋分の日と前後3日の一週間)あります。この期間にお寺ではお彼岸の法要が行われますし、ご先祖様のお墓参りをされる方も多くおられると思います。おはぎや牡丹餅(ぼたもち)を作ってお供えするのもこの頃です。(ちなみに、春は牡丹餅(ぼたもち)、秋はおはぎ。季節によって呼び方が変わるんですよ。)

お彼岸の由来

 さて、「お彼岸(ひがん)」についてもう少し詳しく述べますと、「彼岸(ひがん)」というのは、「川の向こう岸」という意味です。仏教では、「川の向こう岸」には、悩みも苦しみもない平和な悟りの世界、つまりは極楽(ごくらく)浄土(じょうど)があるとされています。

 反対に、「川のこちら側の岸」のことを「()(がん)」といいます。「()(がん)」は、いま私たちが生きている現実世界のことを指し、苦しみや迷い、悩みが絶えない世界といわれています。

 つまり、「お彼岸(ひがん)」は‘こちら側の世界から向こう側の世界に到ること(「(とう)彼岸(ひがん)」)’を意味しています。

「では、どうしたら私たちは向こう側の岸、向こう側の世界に行く事ができるのでしょうか?」

 よくこのような質問を受けます。ここでは、実際にどこかの川を渡るような危ない修行をするわけではありませんし、厳しい修行をしなければいけないというわけではありません。

 天台宗の教えでは、あらゆる存在、誰しもが向こう側の岸、悟りの世界に到れると説かれています。具体的には、彼岸(ひがん)の世界に到達するためには、「六波羅蜜(ろくはらみつ)」と呼ばれる、次の6つの心構えを大切にしながら過ごす生活をすすめているのです。

「六波羅蜜(ろくはらみつ)」

  • 見返りを期待せず、人の為に働いたり、人の為に施しをしましょう (布施(ふせ)
  • 社会や生活のルールやモラルを守り、自分の行動を振り返りつつ、人の為になるような善いことをしましょう (持戒(じかい)
  • 目の前のことですぐに腹を立てたり、人を傷つけたりしないようにしましょう (忍辱(にんにく)
  • (おご)り高ぶらずに目の前のことを一つ一つ丁寧に、謙虚な姿勢でつとめるようにしましょう(精進(しょうじん)
  • 静かで(おだ)やかな心を保ちつづけられるように気をつけましょう(禅定(ぜんじょう)
  • 本当に大切なこと、真実を見極める力を養うよう努めていきましょう(智慧(ちえ)

いかがでしょうか?

 私たちが小さな頃にどこかで聞いたことのあるような内容も含まれるかもしれませんね。

 しかしながら、これらの6つの心構えがつくられたのは、私たちが生まれるはるかはるか昔の1000年以上も前につくられたものなのです。こんなにも昔につくられた心構えなのに見返してみると、不思議と現代の私たちの生活や行動様式にいつでも反映できます。日々この心構えで生活できたら、これまで以上にハリのある生活に変わるかもしれません。

 実は、このような生活実践の智慧が仏教にはあふれているのです。

 ぜひ、「お彼岸(ひがん)」を機会に、‘みんなの仏道修行週間’をみなさんで実践してみませんか?

【話を聞いたひと】日吉円順(ひよし・えんじゅん)さん

 天台宗業平山南蔵院副住職。臨床心理士・公認心理師。教誨師。大学院修了後、東京慈恵会医科大学病院緩和ケア科をはじめ都内近郊の総合病院にて臨床勤務した経験を活かし、がん患者さんの心のケア、認知症高齢者のケア、瞑想法の研究実践、受刑者への教誨活動、葬儀、グリーフケアなど多様な臨床活動を行っている。 近年は、地域社会の人々がお寺をとおして繋がりや絆を再発見できる、専門家による相談サロン「まどかプロジェクト-madocaproject-」を立ち上げ、地域活動の場を広げている。

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