平和の番人 国連の80年【月刊ニュースがわかる4月号】

将棋連盟100周年【ニュース知りたいんジャー】

将棋の発展と普及を担ってきた「日本将棋連盟」が9月に創立100周年を迎えました。100周年の節目に合わせて、東京と大阪で将棋会館の建て替え工事が進み、東京は10月1日、大阪は12月3日にオープンします。連盟のこれまでの歩みや今後の展望などについて、羽生善治・日本将棋連盟会長と、毎日新聞将棋担当の新土居仁昌記者に話を聞きました。【長尾真希子】


 ◇将棋連盟の歴史が知りたい


 江戸時代、将棋好きだった徳川家康は、指南役の大橋宗桂を初代「名人」とし、俸禄(給料)を与えて保護しました。茶道、華道と同じように家元制度で継続し、その家元の称号を「名人」と呼んでいました。
 しかし、明治維新で幕府の保護を失うと、家元の権力が失われ、さまざまな将棋団体が乱立するようになりました。そして、1924年に東京の3団体が合併し、前身となる「東京将棋連盟」が誕生。27年には関西の団体も合流し、「日本将棋連盟」と改称しました。35年には、それまで世襲制だった名人が実力制に移行しました。
 「新聞、雑誌、書籍などの活字文化が盛んになるにつれて、将棋界も発展することができました。これも、いつの時代も将棋を応援してくれるたくさんの人々がいたからだと感謝しています」と羽生会長は話します。


 ◇将棋の魅力って?


 起源は古代インドのゲームとされ、平安時代後期には、日本で原形のようなものがあったという将棋。400年以上前から今と同じルールで遊ばれていて、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康ら名将から愛されました。
 2023年の「レジャー白書」によると、15~79歳の将棋人口は460万人。近年は、人工知能(AI)の出現が将棋界を大きく変え、藤井聡太7冠を中心に盛り上がり、インターネットなどで対局を観戦する「観る将」という新たなファンも獲得しています。
 「将棋は81のマス目と40枚の駒しかありませんが、無限の可能性が潜んでんでいます。対局を続けていく中でその奥深さ、面白さを知ってほしい」と羽生会長は話します。また、将棋は自分が持っている個性やアイデアを発表する場所でもあります。「楽しいと感じたことや、こう指したらどうなるのだろうという好奇心を大切に続けていくと、そこからたくさんの発見や進歩があるはずです。また、将棋は世代を超えて対局ができるので、年の離れた人とも指してみてください」と羽生会長はアドバイスしてくれました。


 ◇東京と大阪に新しい将棋会館ができるんだね


 東京の新将棋会館は、現在の将棋会館の最寄り駅であるJR千駄ケ谷駅の目の前にある「ヒューリック将棋会館千駄ケ谷ビル」の1階に移転しました。対局室が増やされ、椅子対局室や防音対局室1室なども設けられ、旧会館より多くの対局を組むことができます。10月1日には、連盟の事務局のほか、併設された将棋道場やショップ、カフェなどが設置された店舗「棋の音」がオープン。実際の対局は年明けからになる予定だといいます。
 一方、大阪市福島区から大阪府高槻市へ移転する新関西将棋会館(5階建)は、「将棋の日に当たる11月17日に開館記念式典が行われます。1階に売店と将棋道場、2階に椅子対局室、4~5階に和室の対局室が設けられ、12月から公式戦の対局が始まります。
 「12月8日には、同じく100周年を迎えた阪神甲子園球場(兵庫県西宮市)で、100周年イヤーの目玉となる、羽生会長と藤井名人との夢の記念対局が予定されています。対局は『貴賓室』で行われ、観客はスタンドから球場のメインビジョンを通して対局を見守るというから、今から楽しみですね」と新土居さんは笑顔で話しました。


 ◇時代を作った棋士たちを教えて

 現在の将棋界は、全8タイトルのうち7冠を持つ藤井聡太名人を中心に回っています。藤井名人は今年の夏、棋聖と王位をそれぞれ5連覇し、22歳の若さで永世棋聖、永世王位の資格を獲得しました。

「八冠」と書かれた色紙を手に記者会見で笑顔を見せる藤井聡太さん

「藤井時代」を築きつつありますが、過去にも時代を作った偉大な棋士たちがいます。
 まずは木村義雄十四世名人。1935年に始まった名人位決定八段リーグ戦を勝ち抜いて37年、実力制の第1期名人になりました。指し手の定跡の整備にも力を尽くし、名人在位8期で実力制初の永世(十四世)名人になりました。

大山九段(左)が木村名人を4一1出破り、名人位を奪う。笑顔の名人に勝って深々と頭を下げた。


 52年の名人戦で木村名人を倒し、新名人となったのが大山康晴十五世名人です。このとき大山新名人は29歳。47歳の木村名人は「よき後継者を得た」と発言し、1か月後に現役を引退しました。大山十五世名人は名人通算18期(最多)などタイトル獲得は歴代2位の80期、NHK杯など一般棋戦の優勝も44回あります。62年には当時あった5冠を独占し、永世称号も五つ獲得しました。92年に69歳で亡くなりましたが、名人への挑戦権を争うA級棋士のままだったことは特筆されます。
 72年、名人戦13連覇中の大山名人から名人位を奪取したのが中原誠十六世名人です。このとき24歳。「棋界の若き太陽」と呼ばれ、新時代の扉を開きました。名人在位15期で、獲得タイトルは計64期。67年度の勝率8割5分5厘(47勝8敗)は、今も破られていない年度最高勝率の記録です。

第四十八期名人戦七番勝負第6局 名人位を奪回した中原棋聖


 「この3巨人を超える記録を作ったのが、現役の羽生善治九段です。獲得タイトルは歴代1位の99期。たくさんの将棋ファンが100期の大記録を待ち望んでいます」と新土居さんは教えてくれました。

第45期王将戦七番勝負第4局、羽生名人が史上初の7冠達成


 ◇羽生会長が語る これからの100年

 「これからの100年はコンピューターや人工知能(AI)が、より速いスピードで進歩していく時代です。それは多くの人々が似たことを目にして、自分が何をしているのか、分かりにくい時代でもあります」と羽生会長は分析します。
 しかし、そんな時にこそ過去の歴史を振り返って、今まで何が起こったかを知ることが大切だと羽生会長は訴えます。「何でも急いで行うのではなく、時々、ゆっくりと立ち止まったり、自分なりに考えてみたりすることで不安や心配も少し解消されるのではないでしょうか」と将棋界の今後について語りました。(2024年10月02日毎日小学生新聞より)