平和の番人 国連の80年【月刊ニュースがわかる4月号】

自治体が将来「消滅」? 地方で人口減って【ニュース知りたいんジャー】

民間の専門家たちでつくる「人口戦略会議」というグループが4月、全国の市区町村の4割にあたる744自治体が「消滅可能性自治体」に当たるという試算を発表しました。それらの自治体は今後、人口が減っていくので、いずれなくなる可能性が高いと計算されたとのことです。どういうことなのでしょうか。


 ◇どんな内容なの?


 発表では、2020~50年に子どもを産む中心の20~30代の女性の人口が半分以上減ると推計される自治体を「消滅」の可能性があるとしています。
 この問題を巡っては、「日本創成会議」という団体が10年前に、896自治体に消滅可能性があると試算していました。その時よりは自治体数は減りましたが、少子化が進んでいる全体の状況は変わっていないことが示されています。新たに消滅の可能性があるとされた自治体は、北海道や東北地方を中心に99ありました。これに対して100年後も若い女性が5割近く残る自治体は65だとされました。千葉県、茨城県、熊本県などにある自治体です。
 一方、子どもが生まれにくい中、他の地域からの人口流入に頼って成り立つ自治体もあります。これらは「ブラックホール型自治体」と分類されました。東京都内などの25自治体です。ブラックホールは宇宙にある天体で、重力がとても強くて物質や光を吸い込む性質があります。今回、人を吸い込むようなところが、ブラックホールに例えられました。


 ◇これまで問題にはならなかったの?


 以前から、人口減少、特に地方で人が減っていくことは、国の予測などからある程度明らかになっていました。しかし、日本の社会全体では、それほど関心が高くありません。
 関心が集まるきっかけとなったのが10年前の2014年、日本創成会議による消滅可能性自治体の発表でした。中心となったのは増田寛也・元総務大臣です。昔の国の役所・建設省(今の国土交通省)の職員を経て岩手県知事などを務めた人で、地方の様子を長く見てきました。今回の発表にも関わっています。

増田寛也元総務相


 消滅可能性を指摘された自治体は対策を進めています。例えば、群馬県の山あいに南牧村という自治体があります。人口は約1500人で、65歳以上の人の割合(高齢化率)は68・9%(昨年10月時点)です。50年には20~30代の女性が20年より88%減って6人になると試算されました。南牧村は、若者に村へ移住してもらおうと、空き家や仕事の紹介、村営住宅や小中一貫学校の整備などを進めてきました。他にも、若者の移住政策を頑張っている自治体はたくさんあります。


 ◇なぜこうなったの?


 理由は一つではないですが、大きいのは「東京圏」への人口の集中が続いていることです。東京圏は、東京都を中心として、神奈川県、埼玉県、千葉県をまとめた地域です。今回、問題だと指摘された25の「ブラックホール型自治体」は、うち21が東京圏です。中でも東京都は目立っており、23区の半数以上にあたる世田谷区、新宿区、文京区など16区がブラックホール型です。
 特に、子どもを産み育てる若い年代の女性が、地方を出て東京へ集まっています。理由としては、高校や大学を卒業して仕事を探す時に、やりがいがあって面白そうな業種が少ないと思われていることや、都市部と比べて給料が低いことが上げられます。また、「男性が仕事をして、女性は家庭で子育てをする」という昔の考え方が残っていることも影響しているのでは、という意見もあります。

東京大の入学式に臨む新入生たち


 ◇人口が減るってどういうこと?


 子どもは、父親と母親、計2人の間から生まれます。もし父親と母親の間で2人の子どもができれば、理屈の上では世代が代わっても人数は変わらないことになります。
 次に、仮に父親と母親の間にできる子どもが1人の場合を考えてみましょう。この場合は、2人の親から1人の子どもができるので、世代が代わると人数は減ります。
 実際の社会では、日本全体で生まれる子どもの数や人口の傾向は、厚生労働省が「合計特殊出生率」という指標を計算・公表しています。これは、1人の女性が一生の間に産む子どもの数を表します。最新のデータ(2022年)では1・26でした。第2次ベビーブームと呼ばれて生まれる子どもが多かった1971~74年の後は、おおむね小さくなってきました。実際に生まれた子どもの数(出生数)も減っています。
 人口が減らないよう維持するためには、合計特殊出生率は2・07となる必要があるとされています。2・0より少し大きいのは、子どもができる年齢になる前に病気や事故で亡くなる人がいることなどが理由です。


 ◇どうすればいいの?


 とても難しい問題です。「こうすればうまくいく」という単純な方法はありません。
 ただ、全国の中には人口の減少がそれほど起きていない自治体も見られます。そうした自治体は、例えば、学童保育を充実させたり、都会から移住してきた人に住宅を提供したりするなど、子育てや生活をしやすい環境づくりに力を入れているようです。


コンネアサクラ 22日に開所する移住・定住を促進する拠点施設 朝倉 /福岡


 実際に移住してもらうのは簡単ではありません。そんな中、実際に暮らしてもらわなくても、地方のどこかの自治体とイベントや旅行などで継続してつながって関係してもらうことも効果があると注目されています。こうした人たちは「関係人口」と呼ばれています。関係人口が増えれば、その地方の自治体にとってプラスになると期待されています。(2024年05月29日毎日小学生新聞より)