先月、中東にあるパレスチナ自治区のガザ地区を支配するイスラム組織「ハマス」が、イスラエルに大規模な攻撃をしかけたことをきっかけに、両者による激しい戦いが始まりました。どのような理由で対立しているのでしょうか。【真田祐里】
◇誰と誰が戦っているの?
地中海の東側に広がる土地「パレスチナ」をめぐって、ここにイスラエルを建国したユダヤ人と、イスラエルに土地を奪われたパレスチナ人の中から生まれたハマスが戦っています。
戦いのきっかけは、約2000年前までさかのぼります。そのころのパレスチナには、ユダヤ人の王国がありました。ところが他国に攻められて滅び、ユダヤ人たちはヨーロッパなど世界各地に散らばりました。移住先では、1930~40年代にあったドイツ・ナチス党による大虐殺など、差別や迫害を受けました。
そして第二次世界大戦後の48年、自分たちの国を求めるユダヤ人に同情が集まり、国際連合(国連)の支持を受けて建国されたのがイスラエルです。
ただ、ユダヤ人のいない間にパレスチナにはアラブ人が移り住み、今のパレスチナ人として定住していました。そこにイスラエルが建国され、住んでいた土地を追い出されたパレスチナ人がイスラエルと対立し、数十年にわたって戦いを繰り返しているのです。
◇ハマスってどんな組織?
1987年にできた、イスラエルに最も抵抗している組織です。武力による攻撃を多くやっていますが、貧しいパレスチナ人に対して福祉や医療、教育活動をして支持を集めました。
パレスチナ人は現在、93年にイスラエルとの間で結んだ協定により、ガザ地区とヨルダン川西岸地区での自治が認められています。パレスチナ自治政府ができて、両地区を治めることになりましたが、ガザ地区の方は2007年にハマスが武力で制圧しました。ハマスはこれまで度々イスラエルと交戦し、21年にも戦闘がありましたが、その後停戦していました。
◇ガザ地区ってどんな所?
長さ約50㌔㍍、幅5~8㌔㍍の、ほぼ長方形をした区域です。鹿児島県の種子島ほどの面積(約360平方㌔㍍)に約200万人が住んでいます。その多くが、イスラエルの建国によって住む場所を失ったパレスチナ難民です。
ガザ地区では、これまでに何度もイスラエルとの間で大規模な戦闘が起きています。ハマスが支配してからは、イスラエルが「テロ対策」としてガザ地区との境界に高い壁を築き、人や物の出入りを規制する政策を始めました。住民の多くが失業状態で、経済的に苦しいため、国連などの人道支援に頼って生活しています。
◇今、何が起きてるの?
ハマスは10月7日朝、何の予告もなしに突然、イスラエルに対する攻撃を開始しました。数千発のロケット弾を発射し、数百人の戦闘員が境界を破り、イスラエル側に侵入。兵士や民間人ら200人以上を、人質としてガザ地区へ連れ去りました。
これに対してイスラエル軍は、報復(仕返し)としてガザ地区への空爆を始めました。ハマスの軍事拠点だけでなく、パレスチナ難民が生活する難民キャンプをも空爆しています。また、ガザ地区に侵攻し、激しい地上戦も展開しています。
イスラエル軍は、ハマスの戦闘員を狙っていると説明していますが、実際には犠牲者の多くが子どもや女性だといいます。これまでの死者数は、イスラエル側が約1400人、ガザ側が約1万人に上っています。
◇なぜここまで対立?
イスラエルとパレスチナ自治区にまたがる都市「エルサレム」が主な原因です。エルサレムは、ユダヤ教とイスラム教、キリスト教のいずれにとっても大事な聖地だからです。
ユダヤ教徒には、かつての王国の神殿の外壁だったといわれる「嘆きの壁」があります。信者たちが壁に向かって祈りをささげます。一方、その壁の上に見える金色の美しい建物は、イスラム教の寺院「岩のドーム」です。伝説では、イスラム教の教えを広めた預言者ムハンマドが、そこから天に昇ったそうです。
また、キリスト教の聖地は「聖墳墓教会」です。イエス・キリストが十字架にはりつけにされ、処刑されたといわれる場所にあります。
こうしたことから、ユダヤ教徒が多いイスラエルも、イスラム教徒が多いパレスチナ人も、この土地を相手に渡したくないのです。1947年の国連決議でエルサレムは国際管理下に置かれましたが、両者の間では、どちらに属すかが争われています。イスラエルはエルサレムを首都と位置づけ、パレスチナ側は東エルサレムを首都とする国家の樹立を目指しています。(2023年11月08日毎日小学生新聞より)