サブオと旅する「昭和100年」【月刊ニュースがわかる3月号】

アスベスト 問われる国の責任【ニュース知りたいんジャー】

建設作業中にアスベストを吸い込んで健康被害を受けた人や遺族に給付金が支払われることになりました。5月の最高裁判所の判決で、石綿の規制を怠った国の責任が認められたためです。石綿は以前広く使われていましたが、今はどうなっているのでしょうか。【下桐実雅子】

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 ◇石綿って何?


 石綿は、髪の毛の数千分の1ほどの極めて細い繊維状の鉱物です。丈夫で耐火性に優れ安価だったため、建物の断熱材などとして広く使われました。しかし、口や鼻から吸い込んで肺に入ると、数十年後に中皮腫や肺がんなど命にかかわる病気を起こす危険性があり、「静かな時限爆弾」と呼ばれます。
 石綿は1960年代には世界でその危険性が言われ始めました。72年に国際的な機関が、石綿ががんを引き起こす恐れがあると指摘し、ヨーロッパでは80~90年代に使用が原則禁止されました。
 日本では70~90年代にたくさん輸入され、経済発展が優先されて規制は進みませんでした。2004年に石綿製品の使用が原則禁止になり、全面禁止になったのは12年です。


 ◇被害者はどのぐらいいるの?


 国の役所・厚生労働省の統計によると、石綿と関連の深い中皮腫というがんで亡くなった人は2019年で1466人で、増加傾向にあります。また、アメリカの大学などが行っている世界の病気別死者数の推計では、日本で石綿が原因で亡くなった人は19年で約2万人でした。アメリカ、中国に次いで3番目に多くなっています。
 日本では1990年代まで石綿が広く使われていたため、今後も被害者が出てくると見られています。
 被害者は建設現場や石綿製品の工場で働いていた人だけではありません。2005年、兵庫県尼崎市にあった工場の周辺住民に、中皮腫が多く発生していることが分かり、工場の会社の名前から「クボタショック」と呼ばれました。この工場では、石綿を使った水道管を製造していました。子どもの時に近くに住んでいた住民が何十年もたって発病したり、この工場に勤めていた夫の作業着を長年洗濯していた妻が中皮腫で亡くなったりする事例も明らかになりました。


 ◇国の責任が認められたの?


 5月17日の最高裁判決は、アスベストの健康被害を防ぐ対策を長年怠った国の責任を認めました。
 1975年10月、国の役所の労働省(今の厚生労働省)は建設現場で、石綿が飛び散りやすい吹き付け作業を原則として禁止しました。最高裁は、この時点で国は、石綿をあつかう作業員に、吸い込むのを防ぐマスクの着用を義務づけたり、建設材料などに石綿の危険性を表示させたりする義務があったと指摘しました。石綿製品の使用が原則禁止される2004年9月までの29年間、規制を怠った国の対応は違法だと判断されました。
 判決の翌日、菅義偉総理大臣は、裁判を起こした元作業員や遺族らと面会し謝りました。
 国は最高裁判決を受けて、6月9日、被害者や遺族に病状に応じて550万円から1300万円の給付金を支払うことを定めた法律を作りました。元作業員や遺族が申請し、厚労省の審査会で認められれば給付金が支払われます。給付を受ける人は3万人あまり、総額4000億円と見込まれています。


 ◇これまで救済されてなかったの?


 石綿が原因でがんなどの病気になったと認められた場合、労災保険給付や石綿健康被害救済制度によって、補償や救済を受けることができます。
 労災保険給付は仕事で石綿をあつかった人が対象で、平均賃金の約8割が補償されます。しかし、石綿をあつかう工場の周辺住民で病気になった人などは労災保険給付の対象にならないため、2006年に法律に基づく石綿健康被害救済制度ができました。今年5月末までに1万5875人が認定されています。医療費や療養手当などが給付されますが、療養手当は月額10万円程度で、労災保険給付と比べて差があります。病気で働くことが難しくなった被害者にとって十分とは言えないと指摘されています。


 ◇古い建物には石綿があるの?


 石綿は、今も古い建物に残っていて、解体や改修するときに飛散する事故がたびたび起きています。
 大気汚染防止法という法律では、建物の解体や改修工事をする場合、事前に石綿の有無を調査し、飛散を防ぐ対策を取ることを、事業者に義務づけています。しかし、長野県飯田市の保育園では2018年12月、こうした調査がされずに保育中に改修工事が行われ、石綿を飛散させた疑いが持たれています。
 国土交通省によると、石綿を使った建築物は国内に推計約280万棟あり、7年後の28年前後に解体のピークを迎えるとみています。全国労働安全衛生センター連絡会議の古谷杉郎さんは「国が戦略を立てて、安全に除去していくことが必要だ」と話します。
 また、最近では輸入品のバスマットなどに石綿が含まれていることが分かり、大量に回収される事態も起きています。アジアなどではまだ石綿が使われている地域があります。(2021年07月14日掲載毎日小学生新聞より)