アイヌ民族の文化を学んだり体験したりできる国の施設、民族共生象徴空間(愛称・ウポポイ)が、2020年7月北海道白老町にオープンしました。アイヌは北海道を中心に暮らしてきた先住民族です。言葉は日本語と違う「アイヌ語」で、古式舞踊や独特の模様の刺しゅう、木彫りなど、固有の文化があります。ウポポイには国立アイヌ民族博物館や国立民族共生公園などがあり、アイヌ文化を満喫できます。【野本みどり】(2020年05月27日掲載毎日小学生新聞より)
◇どんな体験ができるの?
アイヌの人々が祭りなどで踊る古式舞踊は、ユネスコの無形文化遺産に登録されています。国立民族共生公園にある体験交流ホールでは、これらの伝統芸能を見たり、一緒に踊ったりすることができます。ムックリ(口琴)や、トンコリ(五弦琴)という伝統楽器の演奏を体験することもできます。
アイヌの食事には、サケやシカ、アザラシの肉や、山菜などの季節の植物が使われました。同公園の体験学習館では、アイヌ料理の調理や試食ができます。ウポポイにあるレストランやカフェでも、アイヌ料理を味わうことができます。
◇人々の暮らしは?
集落は「コタン」、家は「チセ」と言われます。同公園には、伝統的なアイヌ家屋を再現したコタンがあります。アイヌ民族は動物の毛皮や魚の皮、木や草の繊維などの身近な材料でも衣服を作りました。衣服には独特の文様の刺しゅうがされました。コタンでは、文様の刺しゅうがされたアイヌの民族衣装を着て、写真撮影もできます。
アイヌの人々は、自然界すべてのものに魂が宿ると考え、周りにある生き物やものごとの中で、人間にとって強い影響があるものを「カムイ」と呼びます。カムイはあらゆるところに存在し、いつも自分たちを見守っていると考えます。
コタンの体験交流プログラムでは、チセのいろりを囲み来場者の健康や旅の安全を祈る「歓迎の祈り」を見たり、参加したりすることができます。また、四季折々の伝統的な儀礼を見学できます。
◇トゥレッポんって?
ウポポイのPRキャラクターです。ユリの仲間の「オオウバユリ」という意味を表すアイヌ語「トゥレプ」が由来です。でんぷんを含むトゥレプは、アイヌの人々にとって貴重な食料でした。キャラクターは年ごろの女の子で、左手にはトゥレプの茎、右手にはトゥレプから作る保存食を持っています。
◇アイヌ民族って?
アイヌ民族は元々、北海道の他、サハリン(樺太)、千島列島にもいました。北海道にいたアイヌは、本州の人を指す「和人」や、樺太の他の民族と交易を行いました。対等だった和人との取引は、徐々にアイヌの人々にとって不利となり15世紀からは和人との戦いが起こります。明治になると政府は、アイヌの人々を和人と同化させようとし、アイヌ文化は衰退していきます。
日本の法律にアイヌ民族が「先住民族」と初めてはっきり書かれたのは、2019年にできた「アイヌ民族支援法」でした。
◇「ウポポイ」ってどういう意味?
ウポポイは、アイヌ語で「(大勢で)歌うこと」を意味します。アイヌ語は日本語とは別の言葉で、北海道にはアイヌ語由来の地名が多くあります。
明治時代以降の近代化の流れで、アイヌ語は失われていき、2009年に国連教育科学文化機関(ユネスコ)が「消滅の危機にある言語」と位置づけました。※写真は電飾でアイヌ民族が親しんだ動物たちが浮かび上がるイルミネーション=白老町のウポポイで2021年12月22日撮影