昨年9月に死去したエリザベス女王の後を継ぎ、イギリスの新国王に即位したチャールズ3世(74)の戴冠式が6日、ロンドンで行われました。新国王はどんな人で、戴冠式とは何でしょう? イギリス王室に関するテレビ番組などでおなじみの関東学院大学の君塚直隆教授に聞きました。【木谷朋子】
◇プロフィルを教えて
イギリスには、1066年から始まったノルマン王朝以来、九つの王朝が君臨してきました。新国王チャールズ3世は、ウィンザー朝第5代の王様です。
本名はチャールズ・フィリップ・アーサー・ジョージです。1948年11月14日、エリザベス王女(後の女王)とエディンバラ公フィリップ殿下の長男として生まれ、52年に母が女王として即位すると王位継承順が第1位となりました。67年にケンブリッジ大学トリニティーカレッジに入学し、69年に「プリンス・オブ・ウェールズ」(皇太子)の称号を正式に授かり、女王が亡くなるまで皇太子を務めました。
81年にダイアナさんと結婚し、2人の間にウィリアム王子とハリー王子が誕生しましたが、96年に離婚しました。現在はジョージ王子ら5人の孫がいます。2005年にカミラさんと再婚しました。
◇戴冠式って何?
戴冠式は、新しい君主(国王)に王位を引き継ぐお祝いの儀式です。キリスト教の教会であるウェストミンスター寺院で、君主が王冠を授かる宗教的な儀式でもあります。1953年のエリザベス女王以来70年ぶりに行われました。
中世では、新しい君主がキリスト教の神から「神聖性」と「正統性」を与えられる場とされていました。現代になって、君主は政治的な権力を持たない存在(立憲君主といいます)になったため、王位に就いた人の「正統性」や「政治的な権力」を国内外にアピールするものではなくなりました。
それでも1066年から1000年近く続く、王室の重要な伝統行事であることに変わりはありません。
◇レガリアって何?
戴冠式で最も重要な儀式は、君主の「宣誓」、聖職者が君主を聖油で清める「塗油」、王冠をかぶせる「戴冠」です。
式の中で必ず使われる品は「レガリア」と呼ばれます。王様であることを示す宝物のことです。今回も、これまでの式と同じように「支配者の宝珠」「聖エドワード王冠」「十字付きの王笏」「ハトの付いた王笏」「君主の指輪」などが使われました。
中でも「聖エドワード王冠」は、1661年にチャールズ2世のために作られた由緒ある王冠です。17世紀から伝統的に、戴冠式の時にだけ使用されてきました。国王は戴冠式を終えると、「大英帝国王冠」にかぶり直しました。
◇新国王のこだわりは?
チャールズ国王は、物価が上がり続けているイギリスの現状を考え、時間も規模も小さく、予算を抑えた戴冠式にしたといいます。エリザベス女王の戴冠式には8000人以上のゲストが招待されましたが、今回は2000人ほどでした。
簡素でも、その中身は真新しいものがたくさんあり、「歴史上初めてづくしの戴冠式」でした。
女性の聖職者が初めて式に参加し、式で重要とされる聖書朗読をしました。聖歌隊に女性がいるのも初めてなら、ヒンズー教徒であるスナク首相が聖書を朗読するなど、キリスト教以外の宗教を信じる人々が式で役割を担うのも初めてのことでした。
ローブ、指輪、ブレスレット、手袋といった宗教と関係のないレガリアは、ユダヤ教徒、ヒンズー教徒、イスラム教徒、シーク教徒が運びました。チャールズ国王が、ジェンダー平等や人種、宗教の違いを超えた「多様性」を尊重していることが分かります。
◇君主制への国民の意見は?
華やかな戴冠式のかたわらで、国王のいる君主制に反対するデモなどもありました。イギリス全体は少数派ですが、若い世代を中心に王室に関心がなかったり、君主制に否定的だったりする人の比率が高まっています。王室が果たしてきた役割が、あまり知られていないことなどが理由です。
王室メンバーは現在、年間3000件以上の公務を担っています。チャールズ国王は、皇太子時代から環境問題や貧困問題に取り組み、貧しい若者たちに職業訓練などをする支援もしてきました。君塚授は「政府ができない社会的弱者の救済を王室が行っていることを理解してもらうためにも、王室自身が自分たちの活動をもっと発信する必要がある」と話します。
(2023年05月24日毎日小学生新聞より)