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スクールエコノミスト2023 WEB【 さくら国際高等学校東京校(通信制)編】

スクールエコノミストは、私立中高一貫校の【最先進教育】の紹介を目的とした「12歳の学習デザインガイド」。今回は特別編として、通信制高校のさくら国際高等学校東京校を紹介します。

子どもたちを救い、生き抜く力を育む新しい高校

<注目ポイント>

 在校生の7,8割の生徒が不登校を経験しているさくら国際高等学校東京校。半世紀にわたり不登校やひきこもりに苦しむ子どもたちに寄り添い、救いの手を差し伸べてきた理事長の荒井裕司先生にお話を伺った。

知識だけで実体験が伴わない子どもたちへの危機感

 今から約50年前、荒井裕司理事長が近所の公園での子どもたちとの触れ合いが、さくら国際高等学校東京校のそもそもの始まりだ。「親しくなった子どもたちの多くは有名小学校に通う、いわゆる勉強ができる子。でも、『1メートルは100センチ』ということは知っていても、『1メートルはどのぐらいの長さか』という問いには答えることができなかった」と語る。つまりテストで点数は取れても、そこに体験は伴わず、実際のところ何も知らない、というのが実情ということだ。この事実に驚きとともに危機感を覚えた荒井理事長は、私的に自然体験教室をスタートさせた。すると保護者から『勉強も教えてほしい』という声が上がるようになり、全人教育の学習塾を1974年に開塾した。

 その後、まだ不登校やひきこもりという言葉もなかった時代に、学校に行かない、行けない、あるいは家や部屋から出られない子どもたちとの出会いがあり、1982年に高校再受験塾を設立することになる。塾で気持ちを切り替え、着実に学力が向上する子どもたちに手応えを感じた荒井理事長だったが、ここで『内申書』という大きな壁にぶつかることになった。

 不登校で定期試験を受けない子どもは、内申点がオール1だったり、評定不能となるケースがあった。そのため、学力に相応しくない高校への進学を余儀なくされ、勉強を頑張り成績を上げても希望の高校へ進学できないことで子どもたちは傷ついた。また、1980年代は、校内暴力という言葉をしばしば耳にするほど、学校が荒れた時代。自分の学力に合わない高校への進学は、単に勉強面だけでなく学校そのものの環境面でも子どもたちにとって大きな弊害となっていく。

 この内申書問題を解決すべく1992年に設立されたのが、「東京国際学園」(サポート校)だ。通信制高校と連携することで高校卒業資格の取得を可能とした。『学校に行きたいけれど、今の高校には通えない』『勉強はしたいけど、高校では学びたくない』……そんな悲しい思いをする子どもたちを一人でも救いたい、東京国際学園設立には荒井理事長の強い思いが込められていた。

 そして、2005年、新しい学びの場として通信制高校・さくら国際高等学校を設立。2015年には学校法人化され、広域通信制・単位制高校 さくら国際高等学校東京校として新しいスタートを切ることになった。

さくら国際高等学校東京校 荒井裕司理事長

30年以上続くライフワークの全国への〝家庭訪問〟

 荒井理事長が30年以上続けているライフワークが、全国の不登校やひきこもりの子どもたちの“家庭訪問”だ。すべての問題とその答えは家庭から見えてくるが「本人に会うことが何より重要」と語る。しかし、不登校やひきこもりの子どもたちは、鋭い感性を持ち、本質を見抜く力があるうえ、大人に強い不信感を抱いており、警戒心も強い。このため、会うこと自体が非常に難しい。荒井理事長は家族と本人が一番信頼していた人物を探し出し協力してもらったり、部屋からは出ることができるケースであれば「7時のカレー作戦」と称し、夕食時に訪問し、一緒に食卓を囲んだ。このように子どもが心を開ける工夫を試行錯誤した結果、高い確率で本人と会い、信頼や安心感を得て子どもたちを外の世界へと導いた。

 同校には進学コースのほかに、高校では珍しい「美術・イラスト」や「総合エンターテインメント」、「ペット・アニマル」などの3つのコースがあるが、これらは家庭訪問をした子どもたちの興味のある、やってみたいという声を受け、導入されたコースなのだ。

 また、子どもたちを支える同校の教員のキャリアも実にユニークで、一般企業で働いた経験はもとより、キャビンアテンダントだった女性、世界中の山を登った登山家、フェンシング日本一の元選手、国立大学工学部を出てカレー店を運営していた人など、趣味や得意分野に情熱を注ぎそれぞれの分野での造詣も深い。師弟関係を超えて、教員と生徒の交流そのものが、生徒の興味関心を引き出す大きな役割を担っていると言えるだろう。

 同校の教育目標は「生き抜く力」の育成を通じて社会に貢献できる生徒の養成だ。そのためには社会との関わりを持った学びが大切だという。そんな教育の一環として、生徒からの提案で始まったのが『ラオスに小学校を建てよう』という海外交流プログラムだ。これまでに8つの小学校をラオスに建設。『途上国に学校を作る』ためのラオスフェスティバルの開催や募金といった国内での活動のみならず、実際にラオスに足を運び、着工式や完成式などにも参加する。現地で、学校もなく学ぶ環境も整っていない村の子どもやその家族と寝食を共にすることで、心からの友情、絆を育んだ。荒井理事長も「自分たちの活動が誰かのためになり、感謝されるという経験を得た子どもたちは劇的に変わっていく」と目を細める。実際にこの活動で、ラオスの医療事情を垣間見て医者になる決意をした卒業生もいる。そして今年4月には都内の病院に就職したと保護者からの喜びの連絡も届いたという。