やる気スイッチはあるの? 「やる気の科学研究所」所長・庭野匠さん 【やる気レシピ】

個別指導塾「スクールIE」や英語で預かる学童保育「Kids Duo(キッズデュオ)」など国内に1900以上の教室を展開する「やる気スイッチグループ」(東京都)は、社名に教育理念のキーワードを掲げる。いったい、子どもにはどんなやる気のスイッチがあり、誰が押すのか。各教室の成功事例などを基に指導法をまとめる社内シンクタンクの所長、庭野匠さんに尋ねてみた。【聞き手・千脇康平】

「本気になれる条件」は得意分野にあり

――「やる気スイッチ」という単語が目をひきます。そんなスイッチは本当にあるのですか?

◆グループの40年以上にわたる指導実績から「やる気スイッチ」はあると考えます。これは「本気になる時の条件」という意味です。ただ、どのような時に本気になれるかは人によって異なる。難しいこと、誰もやっていないようなことに挑戦する時に本気になれる子どももいれば、一つ一つの課題を地道にクリアすることが好きなタイプもいる。国語ができる、算数ができるといった個別のことではなく、もっと普遍的なものです。

子ども自身でスイッチを押せるようになるために

――本気になれるスイッチの条件を見つけ、押すのは誰でしょうか?

◆子ども自身が見つけるのは、なかなか難しいと思います。まずは親や学校の先生、塾の講師など周囲の大人たちが、子どもの興味や得意分野を生かす形で、スイッチを見つけ、子ども自身で押せるようになるためのプロセスが必要です。
例えば、サッカーが好きな子どもに、苦手な算数に取り組んでもらおうとするときには、文章問題の登場人物を「Aさん」「Bさん」ではなく、実在のサッカー選手に置き換えてあげる。そして、解けたら褒める。「できた」という喜びを知ってもらうことが第1段階としてとても大事です。成功体験を繰り返すうちに、子ども自身がスイッチの入れ方を分かってきます。

――実際にどんなケースがありましたか?

◆とある教室で、算数の時計を使った問題が苦手な小学生がいました。まずは日常生活の中で時間を意識するところから始めてもらい、その子が得意な文章問題に、時計を登場させるなどして抵抗感をなくしていきました。時計を見るだけで嫌だった状態を克服できたんです。誰かに背中を押してもらっているのですが、ちゃんとできた、やってよかったという経験が第1段階として大事だと感じます。

気をつけたい学習性無力感

――小さなステップを積み重ねるのを親が見守るには、忍耐力も要りそうです。

◆自分の価値観でやり方を示したり、怒ったりしてしまいがちです。特に期待する水準に届かなかったからといって怒ってしまうと、何をやっても無駄で、言われる通りにするしかないという「学習性無力感」を子どもが抱くことにつながりかねません。
子どもを思っているからこそ、言い過ぎてしまうのは、親なら誰しも通る道です。まずは、ぐっと我慢してください。そして「褒めること」の効果にしっかりと目を向けてほしい。知識があるからこそ目標設定ばかりに偏りがちですが、褒めることと小さな目標設定をセットにしてステップを重ねていきましょう。

やる気が湧くカギは「行動を習慣化」

――子ども自身へのアドバイスは?

◆行動すれば、やる気は自然に湧いてくることが多いので、行動を習慣化することを勧めます。何時に起きる、何時から何時までこれをやる、といった計画や目標を立て、実行してみてください。ただ、それも子どもによってできることのレベルは異なります。家でしっかりと勉強ができるならよいのですが、学校や塾に行かなければならない日にちゃんと通うことから始めた方がいい子もいます。

――そこで大人のサポートが生きてくるのですね。

◆通えるようになったら褒める。そして「じゃあ、1時間前に来て、自習してみよう」といったように少しずつステップアップします。習慣化していく過程では「どうして私だけ、こんなことをやるんだろう」といった反応もきっと出てくるでしょう。でも、子どもには、志望校に合格することだったり、定期テストでいい点を取ることだったりと、それぞれに目標があるはずです。「今、頑張ることにどんな意味があるのか」を子ども自身が気付けるように、個々の特性に合わせてフォローしてあげてください。(2021年12月27日掲載毎日新聞より)

人物略歴

庭野匠(にわの・たくみ)さん

1980年千葉県生まれ。東京大大学院人文社会系研究科修士課程修了。大手通信教育会社などを経て2019年、やる気スイッチグループのシンクタンク「やる気の科学研究所」所長に就任。グループが実践する指導法の磨き上げ、ウェブサイト「やる気ラボ」や会員向け教育プラットフォームのコンテンツ開発などを手がける。趣味はサッカー観戦で、J1・柏レイソルのサポーター。