国の研究機関・海洋研究開発機構(JAMSTEC)が開発した深海巡航探査機「うらしま8000」が、7月に伊豆・小笠原海溝で水深8015.8メートルに到達し、海底地形などの調査を行いました。日本は領海と、経済的な権利を持つと認められた排他的経済水域(EEZ)を合わせた面積が世界6位と広大です。そのうち水深4000メートルより深いエリアが約半分を占める「深海大国」でもあります。うらしま8000をどのように活用し、広い深海の調査、開発に挑むのでしょうか。
うらしま8000ってどんな探査機なの?
元々は水深3500メートル級の「うらしま」として活躍していましたが、より深く潜れるよう2022年から改造が行われました。
深海では、海底から100メートル上を航行しながら海底に向けて音波を発し、はね返ってきた音波の測定から、さまざまな観測を行います。音波の反射で、地形の凹凸や硬さ、海底の数十~100メートルほど内部の構造が分かります。
音波の反射を用いた海底地形の観測は、海面に浮かぶ船舶からでもできます。しかし、より海底に近いうらしま8000は、海面からの観測に比べて100倍の解像度を得ることができます。
どうやって、どんな調査をしているの?
現在の自分の位置がわかる全地球測位システム(GPS)の電波が、海の中では届きません。このため、ルートは事前に設定して航行します。海面の母船と音波通信でやりとりして自分の位置などを把握し、加速度などを常に測定することで、ルート上のどの位置にいるかを自ら判断して進みます。
試験航行を重ね、今年7月には日本周辺の海溝で最も深いとされる小笠原海溝に挑みました。
また、希少な鉱物資源「コバルトリッチクラスト」が豊富に存在すると期待される千葉県の房総半島沖にある拓洋第3海山、2011年3月に発生した東日本大震災の震源域である宮城県沖の日本海溝でも試験観測を行いました。
海山の頂上付近を覆うコバルトリッチクラスト
調査・研究で分かったことは?
小笠原海溝では、それまで平らだと思われていた海底に深さ約40メートルの谷など細かな凹凸が連続する地形が鮮明に浮かび上がりました。海洋研究開発機構(JAMSTEC)の富士原敏也・主任研究員は「こんなに細かいデータがとれるんだという驚きと、どう解釈したらいいんだろうといううれしい戸惑いで『⁉』という感じでした」と語ります。
富士原さんの研究チームは日本海溝で総距離141.7キロメートル、25時間半に及ぶ航行で、東京都江東区とほぼ同じ面積(約41平方キロメートル)を調べました。
東日本大震災で東側に動いた地盤の端が隆起(盛り上がること)したとみられる、落差最大約60メートルの崖が北から南へ向かって走っていることや、その西側に落差30~50メートルほどの畝と溝がいくつもあることが分かりました。
地下構造をみると、しま状の堆積層が所々でずれたり曲がったりしており、南北・東西に網目状の複雑な断層が走っていることが分かりました。富士原さんは「今後詳細に解析し、どうやってこのような地形ができたか解釈していきたいです」と言います。
8000メートルより深い海もあるよね
うらしま8000は水深約8000メートルまで潜れるので、日本のEEZの98%をカバーできます。ただ、広範囲の海底観測が得意な一方、海底に降りて撮影したり、土や生き物などを持ち帰ったりすることはできません。そこで、目的や深さに合わせたさまざまな探査機の開発が進められています。
地球で最も深い、水深1万1000メートルの「フルデプス」と呼ばれるエリアに挑むのは、海底設置型の観測機と小型の自律探査機をセットにしたシステムです。観測機は大容量電源を備えて、定点観測や船との通信を担います。既に水深9200メートルでの実験に成功しました。
小型探査機は、2027年ごろの運用開始を目指して開発中です。自動で水平移動しながら海底の生き物や岩石などを採取することを目指します。
これからの課題は?
日本では、数々の発見をもたらした有人潜水調査船「しんかい6500」も知られています。1989年の建造当時は世界の超深海探査をリードし、今も活躍を続けています。ただ、現在は海外の研究機関や民間企業がより深く潜れるものを開発しています。
しんかい6500は2040年代にも設計上の寿命を迎えますが、コストや技術面などの課題から後継機の具体的な検討はされていません。まず現在の機体を最大限活用しながら、無人機も含めた多様な探査機で役割分担し、調査航海を効率化する考えです。
各種探査機を運ぶ母船「よこすか」も、30年代の完成を目指して新造することが決まりました。複数の探査機を同時に載せ、運用することで約3倍の効率化が見込まれています。
日本を取り巻く深海には、地震・津波・海底火山などに対応した防災課題や海洋プラスチックによる汚染実態の解明のほか、有用な海底鉱物資源や深海生物の調査など、研究すべきことがたくさんあります。このため、さまざまな探査機の今後の活躍が期待されます。
(2025年10月29日毎日小学生新聞より)
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日本の超深海探査 「うらしま8000」が挑む【ニュース知りたいんジャー】
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