歌やダンス、芝居で観客をステージの世界に引き込むミュージカル。近年は、ミュージカル映画の公開が相次ぎ、2月末には東京の帝国劇場が建て替え休館前にテレビなどで特集されたことで、さらにミュージカルに注目が集まっています。宝塚歌劇団(本拠地・兵庫県宝塚市)の雪組元トップスターの彩風咲奈さんに、ミュージカルの魅力や見方について教えてもらいました。
17世紀にヨーロッパ貴族の娯楽・オペラを庶民も楽しめるようにと誕生した喜劇中心の音楽劇「オペレッタ」がルーツ(元)とされています。それがアメリカへ渡り、本格的なストーリーを盛り込んだ作品「ショー・ボート」が1927年に上演されました。これが世界初のミュージカル作品とされています。
これをきっかけに、それまでのショーや喜劇的な要素が強かった作品が、ストーリー重視へと変わりました。43年に大ヒットした「オクラホマ!」以降、60年代にかけて黄金期を迎え、「サウンド・オブ・ミュージック」「王様と私」「ウエスト・サイド・ストーリー」など古典的な名作が誕生します。
一方、劇作家シェークスピアを生んだイギリスでは80年代以降、「キャッツ」や「オペラ座の怪人」「レ・ミゼラブル」などヒット作が登場。アメリカ・ニューヨークのブロードウェーと、イギリス・ロンドンのウエストエンドが、ミュージカルの2大聖地として有名になりました。
90年代以降は、「美女と野獣」「ライオンキング」「アラジン」などディズニーの作品が、映画だけでなく演劇界にも進出して大ヒット。日本では、劇団四季が上演することで、ミュージカル人気に火がつきました。
日本での本格的な上演の始まりは、63年の「マイ・フェア・レディ」です。海外作品の上演が多いですが、近年は日本発のオリジナル作品も増えてきました。マンガやアニメを舞台化する「2.5次元ミュージカル」という日本独自のジャンルも人気を集めています。

1963年に上演された日本初のブロードウェーミュージカル「マイ・フェア・レディ」
「ミュージカルの魅力は、歌とダンスと芝居を一度に楽しめるところでは」と彩風さんは話します。彩風さんは小学6年のときに、宝塚歌劇団の舞台を初めて生で見て感動したといいます。「舞台の美しさや壮大さのほか、生オーケストラ演奏、きらびやかな衣装などに衝撃を受けましたね」。加えて、即興(アドリブ)や役者の息づかいなども伝わってくるのが魅力です。
芸術鑑賞会や修学旅行、校外学習などでミュージカルを見る機会がある子もいるかもしれません。「ピーター・パン」や「アニー」「赤毛のアン」など子ども向けの作品もたくさんあります。また、近年は「ウィキッド ふたりの魔女」や「白雪姫」などミュージカル映画の公開も相次いでいます。彩風さんは子どものころ、ミュージカル映画「ヘアスプレー」に夢中になり、学芸会では「夢から醒めた夢」を演じたそうです。
「内容は詳細に覚えていなくても、小さいころに見たときの衝撃や感覚は、ずっと覚えています。小さいころからさまざまなことを経験し、ミュージカルに触れておくと、心が豊かになり、感性が磨かれるのでは」と彩風さんはアドバイスします。

彩風咲奈(あやかぜ・さきな)さん:愛媛県出身。2007年、宝塚歌劇団へ入団。21年雪組トップスターに就任。24年10月に「ベルサイユのばら」を最後に宝塚歌劇団を退団。5月には、大阪と東京でファーストコンサート「no man’s land」を開催予定。
ミュージカルでは、突然歌を歌い出すところに違和感があるという人(ひと)もいるかもしれません。しかしこれは、予兆(よちょう)もなく突然(とつぜん)歌(うた)いだしているわけではありません。
「感情(かんじょう)が高(たか)ぶって、言葉では足りない、言葉以上に気持ちが膨らんだときに歌い出すんです」と彩風さんは説明します。
例えば、楽しい、うれしい、幸せといった気持ちが膨らんだら、思わず鼻歌を歌ってしまうことはありませんか。「それを自然なことととらえれば、突然歌い出すことは、不自然ではありません」
歌詞をよく聞いてみると、物語が進んでいたり、心の中が表現されていたりします。ダンスも同様で、言葉を超えた感情表現の手段として重要な役割を果たしています。「正解がないのが舞台のいいところ。何をどう感じるかは、見た人の自由です。歌詞やダンスの意味などを自分なりに考えて、楽しんでみては」
劇場に一歩足を踏み入れると、そこは非日常のきらびやかな世界が広がっています。舞台には、豪華なセットのほか、照明や音響、小道具、衣装など見どころが盛りだくさんです。
彩風さんのオススメは、舞台に登場する小道具です。例えば、食べるシーンの食器は、陶器のように見えて、実は割れにくい素材でできており、食べ物もリアルに作られています。そして、それを食べている役者も、まるで本物を食べているように見えるから不思議です。
また、衣装は、スーツの形やドレスの流行などから、その舞台設定の時代を知ることもできます。「舞台には、いろんなところに楽しみがちりばめられています。さまざまな角度から見てみると、楽しいですよ」
ミュージカル俳優になるのに、必要な資格はありません。しかし、声楽科などがある芸術系の大学や専門学校を卒業し、劇団や芸能事務所に所属する人が多いです。
彩風さんは、宝塚音楽学校に入学し、2年間、歌やダンスなどの基礎をみっちり学び、宝塚歌劇団へ入団しました。そんな彩風さんの小学生時代の習い事は、クラシックバレエだったそうです。「すべてのダンスの基本はバレエだと思います。姿勢や腕の伸ばし方などの動きの美しさが反映されます。バレエをやっていたから、ジャズダンスなどさまざまなジャンルのダンスに対応できました」
宝塚音楽学校を受験する前に、歌も習ったそうですが、小学生のうちは、「楽しく歌うことが大切」だとアドバイスします。「自分が目指す表現をするために、自分はどう歌いたいかというのが大事かなと思います」
(2025年3月26日 毎日小学生新聞より)
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