誰もが一度は抱いたことのあるような問いについて、哲学者が、子どもたちとともに考えていくという形で書かれた「子どもの哲学」シリーズの第2弾『この世界のしくみ 子どもの哲学2』(毎日新聞出版刊)。大人も子どももいっしょになって、ゆっくりと考えてみませんか。本書から一部をご紹介します。本書のもとになった「てつがくカフェ」は、毎日小学生新聞で毎週木曜日に連載中です。
生きられるけれど…… ゴードさん
「人は一人では生きていけない」とよく言うけれど、そもそも、それは本当かな。ロビンソン・クルーソーみたいに一人で無人島に流れ着いたら、どうしようか。自分で食べられる物を探して、火をおこし、雨風をしのげるところを探さないといけない。病気になってもお医者さんはいないし、獣におそわれても誰も守ってくれない。仲間がいれば助け合えるけれど、一人だと、ただ生き延びるだけでも、ものすごく大変だ。でも、絶対に生きていけないということはなくて、運が良ければ結構長く生きられると思うよ。
ただ、この場合は、頑張って生きていればそのうち船が通りかかって救助してもらえるという希望がある。では、「いつか誰かに会えるかも」という希望さえなかったら、どうだろう。たとえば、他の人類が全員死んでしまって、自分だけがこの地球上に生き残ったとしたら? 私なら、誰とも話さないで生活しているうちに、だんだん「本当は自分も死んでいるんじゃないか、幽霊になってさまよっているだけなんじゃないか」なんて思ってしまいそう。なんとかして生きようとする強い気持ちを失って、すぐに弱って、死んでしまうかもしれない。
人間を恋しがりすぎ ……コーノさん
たしかに、ゴードさんの言うように、人間は「ひと」の「あいだ」と書くくらいで、他の人と一緒に生きてこそ、人間なのだと思う。だから、たった一人だと、町がないどころか、本もテレビも、話し相手もいないので、言葉も使わなくなる。それに自分が死ねば人類は全滅だ。さみしくて、恐ろしいことだね。
でも、一方でこうも思うんだ。私たちはふだん、人間と一緒に暮らす時間が長すぎていて、感じ方や考え方がすべて人間のほうにかたよってしまっているのではないかと。みんな、人は人がいないと生きていけないとか、仲間をたくさん作ろうとか、友達友達って言いすぎじゃないかな。なにか、人間といつも仲良く一緒にいることが、絶対やらなきゃいけない義務のように思えてくるけど、本当にそうなのかな。
私は、長い時間一人でいるのが好きだ。家族も友達もいるけど、それ以上にもっと一人でいたい。特に自然の中で、一人きりでいるのが好きだ。自然の中でしばらく暮らすと、他の動物や植物のことがだんだんわかるようになるし、雨や風、川、海、太陽、星、土、岩に敏感になる。人間を恋しがってばかりいる人って、自然への感性が鈍いことがある。そうすると、人間がどういう生き物なのか、人間が自然の中でどういう位置にいるのかがわからなくなる。
だから、いつもいつも人間とばかり一緒にいて、人間のことばかり気にしてちゃダメだと思う。多くの時間を一人で生きて、たまに人に会うくらいでちょうどいいんじゃないかな、と私は思う。
「一人」ってどんなとき? ……マツカワさん
二人とも、余裕だなあ。私は、いま、一人で出かけたくない。だって、うちのすぐ近所にイノシシが出るんだもん。人がたくさんいる街中だったら、まだいいよ。自分がイノシシに遭遇する前に他の人が気づいて、危険を回避できる可能性が高いからね。でも、他に誰もいなかったら? 運良く、おとなしいイノシシだったらいいけどさ、もしこっちに突進してきたら人間の足じゃ逃げきれないし、ぶっ飛ばされても助けも呼んでもらえない。自分で自分を守りきれる自信もないし、だからといって、運なんて不確かなものに頼るなんてイヤだよ。
けど、どんなに周りにたくさん人がいても、誰も助けてくれないと感じるなら、それは一人でいるのと同じかもしれない。反対に、人がいなくても、毎日会う鳥や夜空の星を見て「大丈夫」と安心できるなら、そのとき私たちは、本当の意味では一人ではないんじゃないかな。
★「てつがくカフェ」は毎日小学生新聞で毎週木曜日に連載中
<5人の哲学者をご紹介>
河野哲也(こうの・てつや)
立教大学文学部教育学科教授。専門は哲学、倫理学、教育哲学。NPO法人「こども哲学 おとな哲学 アーダコーダ」副代表理事。著書に『道徳を問いなおす』、『「こども哲学」で対話力と思考力を育てる』、共著に『子どもの哲学』ほか。
土屋陽介(つちや・ようすけ)
開智日本橋学園中学高等学校教諭、開智国際大学教育学部非常勤講師。専門は哲学教育、教育哲学現代哲学。NPO法人「こども哲学 おとな哲学アーダコーダ」理事。共著に『子どもの哲学』、『こころのナゾとき』シリーズほか。
村瀬智之(むらせ・ともゆき)
東京工業高等専門学校一般教育科准教授。専門は現代哲学・哲学教育。共著に『子どもの哲学』、『哲学トレーニング』(1・2巻)、監訳に『教えて!哲学者たち』(上・下巻)ほか。
神戸和佳子(ごうど・わかこ)
東洋大学京北中学高等学校非常勤講師、東京大学大学院教育学研究科博士課程在学。フリーランスで哲学講座、哲学相談を行う。共著に『子どもの哲学』ほか。
松川絵里(まつかわ・えり)
大阪大学コミュニケーションデザイン・センター特任研究員を経て、フリーランスで公民館、福祉施設、カフェ、本屋、学校などで哲学対話を企画・進行。「カフェフィロ」副代表。共著に『哲学カフェのつくりかた』ほか。
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