誰もが一度は抱いたことのあるような問いについて、哲学者が、子どもたちとともに考えていくという形で書かれた「子どもの哲学」シリーズの第2弾『この世界のしくみ 子どもの哲学2』(毎日新聞出版刊)。大人も子どももいっしょになって、ゆっくりと考えてみませんか。本書から一部をご紹介します。本書のもとになった「てつがくカフェ」は、毎日小学生新聞で毎週木曜日に連載中です。
交換する道具……ムラセさん
お金って不思議だ。よくよくながめてみれば、ただの紙や金属なのに、お店では食べ物やおもちゃと取り替えてくれる。ただの紙、しかも、だいぶ汚れている紙をアイスやジュースと交換してくれるんだ! なんて素晴らしいんだろう。もちろん、ただの紙もメモ帳やティッシュに使うことができる。コインならネジ回しの代わりにできる。でも、お札やコインをそれ自体で何かに使うことはめったにない。
紙や金属としては使わないけど、お金は便利なものだ。だって、いつでも欲しいものと交換できるし、もち運びにも便利だ。腐ったりもしない。お金自体がなくて、物々交換だけなら、家を交換したりするのはとても難しい。だって、家と交換できるくらいのパンを欲しがる人はいないし、そんなにパンをもっていても腐っちゃうからだ。
お札やコインは、それ自体が何かをするわけではなくて、便利に交換するためにある。交換専用の道具ってことだ。交換するためだけにある道具なんて! お金って、とっても変なものなんだね!
いつのまにかお金に支配…… ツチヤさん
ムラセさんが言うように、お金は交換専用の道具だ。しかも、交換できるのは、パンや家みたいな目に見えるモノだけではない。たとえば、僕は勤務先の学校に行くのに毎日電車を使っている。電車に乗るたびに電車賃を払っているけど、もちろんそれは電車というモノと交換しているわけではない。では何と交換しているのかといえば、それはたぶん「電車を一定区間利用する権利」だ。もしあなたが塾に通っているなら、あなたはお金と交換に「特別な授業を受けて勉強する権利」を手に入れているんだ。物々交換とは違って、お金は目に見えない「権利」と交換することもできるんだね。
そして、お金はしばしば「人間の自由を奪う権利」とも交換される。こう言うと大げさだけど、大人たちの中には、お金をもらうことと交換に、毎日行きたくもない会社に行って、したくもない仕事をしている人も多いよね。それって、お金と交換に、自分の自由を差し出しているようなもんだ。こうして、人間はいつのまにか、お金によって支配されるようになるんだ! お金はこの意味ではとっても怖いものでもあるね。
お金がいらない生活は…… コーノさん
あなたはお金を使わずに生活したことがあるかな。ふつうに日本で暮らしていると、どうしてもお金を使っちゃう。でも、山でキャンプしているとお金は使わない。街や村から離れて、自給自足の生活をしている人もいる。魚や動物を獲って、小さな農園を作って、薪で部屋を暖めたり、自分の太陽光発電機で電気を作っている。服も自分で作っちゃう。そういう生活はお金がいらない。
あなたも少しのあいだでもいいから、そういう自給自足の生活をやってみたらどうかな。楽しいこともたくさんあるけど、大変なことも多い。なかなか食べ物が手に入らなかったり、必要なものが作れなかったりして苦しい。特に病気やケガをしたら大変だ。薬もないし、お医者さんもいない、下手をすると死んじゃうかも。だから、専門の人が作ったものやサービス、たとえば、食品や家とか、治療とかを、お金で買った方が、質の良いものが簡単に手に入る。実際に私もいつもお金を使って生活している。
でもそうすると、本当に「生きている」という実感が減ってしまうように思うんだ。水道の蛇口をひねれば水が出て、お店にはペットボトルの水がならんでいる。でも、新鮮な川の水を探して、飲んだほうが、体に染み込むようにうまい。いまの日本はなんでも便利すぎるかも。だから、これからは、ちょっと不便でもお金をなるべく使わない生活を好む人が増えてきそうな予感がする。
★「てつがくカフェ」は毎日小学生新聞で毎週木曜日に連載中
<5人の哲学者をご紹介>
河野哲也(こうの・てつや)
立教大学文学部教育学科教授。専門は哲学、倫理学、教育哲学。NPO法人「こども哲学 おとな哲学 アーダコーダ」副代表理事。著書に『道徳を問いなおす』、『「こども哲学」で対話力と思考力を育てる』、共著に『子どもの哲学』ほか。
土屋陽介(つちや・ようすけ)
開智日本橋学園中学高等学校教諭、開智国際大学教育学部非常勤講師。専門は哲学教育、教育哲学現代哲学。NPO法人「こども哲学 おとな哲学アーダコーダ」理事。共著に『子どもの哲学』、『こころのナゾとき』シリーズほか。
村瀬智之(むらせ・ともゆき)
東京工業高等専門学校一般教育科准教授。専門は現代哲学・哲学教育。共著に『子どもの哲学』、『哲学トレーニング』(1・2巻)、監訳に『教えて!哲学者たち』(上・下巻)ほか。
神戸和佳子(ごうど・わかこ)
東洋大学京北中学高等学校非常勤講師、東京大学大学院教育学研究科博士課程在学。フリーランスで哲学講座、哲学相談を行う。共著に『子どもの哲学』ほか。
松川絵里(まつかわ・えり)
大阪大学コミュニケーションデザイン・センター特任研究員を経て、フリーランスで公民館、福祉施設、カフェ、本屋、学校などで哲学対話を企画・進行。「カフェフィロ」副代表。共著に『哲学カフェのつくりかた』ほか。
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