2025年 重大ニュース【月刊ニュースがわかる12月号】

数字はどうやってできたの?  <この世界のしくみ>

 誰もが一度は抱いたことのあるような問いについて、哲学者が、子どもたちとともに考えていくという形で書かれた「子どもの哲学」シリーズの第2弾『この世界のしくみ 子どもの哲学2』(毎日新聞出版刊)。大人も子どももいっしょになって、ゆっくりと考えてみませんか。本書から一部をご紹介します。本書のもとになった「てつがくカフェ」は、毎日小学生新聞で毎週木曜日に連載中です。

数字を使う前から数はあった……ムラセさん

 数字というのは、「1」とか「2」とかのことだね。数字には書き方がたくさんある。たとえば、「一」と「二」というのも数字だし、「Ⅰ」とか「Ⅱ」なんていう数字を知っている人もいると思う。だから、むかしの人がそれぞれの書き方にどうやってたどり着いたか、その歴史は、一つ一つ調べてみないといけないね。

 ここで数字から「数」に目を向けてみよう。数というのは、数字が表しているもののことだ。同じ犬のことを、「いぬ」と書いたり、英語では「dog」と言ったりするように、「一」でも「1」でも、同じ1という数を表している。犬は「いぬ」と呼ばれる前からいる。それと同じように、1も「一」と書かれる前からあったはずだ。つまり、数字は、もとからあった数を表すために作られたんだ。「一」や「1」の形が似ているのは、きっとむかしの人が「1ってこんな形かな」って思ったからじゃないかな。君なら1をどんな形で書き表すかな?

そもそも数って……ツチヤさん

 ムラセさんは、「数字」と「数」とを区別して考えているね。ムラセさんによれば、「数字」というのは、もとからあった「数」を表すための「字」なんだって。みんなはこの説明に納得できる?

 「川」について考えてみよう。これだって字(文字)だ。この字はもちろん、僕たちが夏に遊びに行って泳いだり、スイカ割りをしたりする、あの川のことを表している。そういえば「川」という字は、なんだか水が流れているあの川の様子に似ているね。こう考えてみると、たしかに字というものは、字の外にある本当のものを表しているようだ。

 でも、数字はどうだろう? 数字が「数」を表す「字」だとしたら、そもそも「数」ってなんだ? そんなものは目に見えないし、それがあるってどういうことなのか、よくわからない。「3」という「数字」とは別に、3という「数」自体がある(「3」という字の外に、この字が表している本当の3というものがある)って考えるのは、おかしいんじゃないかな。なので、ムラセさんの意見は間違っていると僕は思う。

物の「状態」かもしれない……ゴードさん

 うーん、そうかな。私は、ムラセさんの言う通り、「数字」とは別に「数」があると思う。たとえば、かごにリンゴが5個入っていたとして、そこに数字で「5」と書いていなくても、それは4個でも6個でもなく「5個ある」ということになるよね。だから、数って、川やスイカみたいな「物」ではなくて、物の「状態」のことなのではないかな。川が「流れている」とかスイカが「甘い」と同じように。その状態は、リンゴが「たくさん」ある、「少し」あるというように、量で考えることもできるけれど、それをもっと正確に知らなければならなくなったときに、人間は数という状態をとらえ始めたのではないかな。

 でも、これではまだ数のことをうまく説明できていないような気がする。算数の勉強をしているときに出てくる「数」の中には、世界中のどんな物の状態も表していないように思えるものもあるし……。
「てつがくカフェ」は毎日小学生新聞で毎週木曜日に連載中

<5人の哲学者をご紹介>

河野哲也(こうの・てつや)

立教大学文学部教育学科教授。専門は哲学、倫理学、教育哲学。NPO法人「こども哲学 おとな哲学 アーダコーダ」副代表理事。著書に『道徳を問いなおす』、『「こども哲学」で対話力と思考力を育てる』、共著に『子どもの哲学』ほか。

土屋陽介(つちや・ようすけ)

開智日本橋学園中学高等学校教諭、開智国際大学教育学部非常勤講師。専門は哲学教育、教育哲学現代哲学。NPO法人「こども哲学 おとな哲学アーダコーダ」理事。共著に『子どもの哲学』、『こころのナゾとき』シリーズほか。

村瀬智之(むらせ・ともゆき)

東京工業高等専門学校一般教育科准教授。専門は現代哲学・哲学教育。共著に『子どもの哲学』、『哲学トレーニング』(1・2巻)、監訳に『教えて!哲学者たち』(上・下巻)ほか。

神戸和佳子(ごうど・わかこ)

東洋大学京北中学高等学校非常勤講師、東京大学大学院教育学研究科博士課程在学。フリーランスで哲学講座、哲学相談を行う。共著に『子どもの哲学』ほか。

松川絵里(まつかわ・えり)

大阪大学コミュニケーションデザイン・センター特任研究員を経て、フリーランスで公民館、福祉施設、カフェ、本屋、学校などで哲学対話を企画・進行。「カフェフィロ」副代表。共著に『哲学カフェのつくりかた』ほか。

 

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