世界の人たちと生きる これからの日本【月刊ニュースがわかる11月号】

男と女、どちらが大変? <この世界のしくみ>

 誰もが一度は抱いたことのあるような問いについて、哲学者が、子どもたちとともに考えていくという形で書かれた「子どもの哲学」シリーズの第2弾『この世界のしくみ 子どもの哲学2』(毎日新聞出版刊)。大人も子どももいっしょになって、ゆっくりと考えてみませんか。本書から一部をご紹介します。本書のもとになった「てつがくカフェ」は、毎日小学生新聞で毎週木曜日に連載中です。

働く女の人に冷たい……  コーノさん

 うーん、難しい質問だね。「大変」って何についての話をしているのかと、「大変」ってどういう意味かによるよね。

 日本の話をすると、いま、政府は、女性に仕事の分野でもっと活躍してもらおうって呼びかけている。日本は、働いている女性に冷たくて、女の人が男の人と同じように一生懸命働いてもなかなか偉くなれなかったり、子どもを産んだりすると次の仕事がやりにくくなっていたりしている。仕事の種類も、男の人よりも選択肢が少なかったりして、働きにくい職業の種類があったりする。女の人のほうでも、そういうことが続いて、自分はあまり仕事ができないんじゃないかと自信をなくしている人も多い。他の国の人たちからも、日本は女性が働きにくくて、社会で活躍しにくい国だと批判されている。

 私はその通りだと思う。女の人は仕事について不公平に扱われていて大変だと思う。だから、いまよりももっと女の人が働きやすくて、子どもを産んだり育てたりすることと、働くことが両立できる社会にするべきだと思うんだ。夫も家事や育児をいまよりも分担して、女の人の負担を減らすべきだと思うんだ。でも、「大変」って仕事だけの話じゃないよね。

それぞれの大変さがあるはず……ゴードさん

 例として、私自身が「女だから大変だ」と感じることを考えてみるね。よくそう思うのは、体のことかな。子どもの体は男女とも似ているけれど、大人の体は男女でぜんぜん違う。女の体で大変なのは、まず、ほとんどの大人の男より小さくて弱いこと。危険な目にあわないように男性よりも気をつけていなければならないし、自分を自分で最後まで守りきれないと感じるのはつらい。それから、毎月、月経があること。おなかが痛かったりだるかったりして、他のときと同じようには動けない。それなのに、仕事はいつも同じようにこなさなければならないから、大変だと感じる。

 でも、だからといって、男より女の方が大変だと言うつもりはまったくないよ。だって、男の体をもつことにも、きっと私の知らないいろんな苦労があるはずだから。自分の体では感じない大変さを理解するのはとても難しいから、つい、他の特徴をもつ体の大変さは、なかったことにしてしまいがちだ。でも、そもそも体の特徴はひとりひとりまったく違うのだから、それぞれ、他の人の体では感じられない大変さがあるはずなんだ。

 みんなが、自分では感じない大変さを相手は感じているのかもしれないという想像力をもって、誰も無理をせずに助け合えたら、少しは大変さを減らせるんじゃないかな。そういう世の中になったらいいな。

男女の区別よりも個人の差も……ムラセさん

 そもそも男女の区別ってそんなに意味があるのかな?

 たとえば、心は女性で体は男性、だから、できれば女性の体になりたい。そう思う人がいる。男性の体になりたいわけではないけど、ふだんの格好は、男性が着そうな服を着ていたいなぁって思う人もいる。こういう人たちを、男女の区分に無理矢理当てはめて考えたり、どっちかを選ばせたりするのは、おかしいだろう。

 体の大きさだって、男性がいつでも大きいわけではない。僕の背丈は日本の女性の平均と同じくらいで、ヨーロッパとかに行くと、ほとんどの大人の女性よりも小さい。月経だって、年をとればなくなる(閉経)し、月経が来ない女性もいる。つまり、男女で区別して考えるのではなく、個人同士の差に目を向けた方が正確に物事を考えることのできる分野があるってことだ。

 もちろん、コーノさんが言ってくれた仕事については、男女で切り分けて考えると、いろんな問題が見えてくる。出産や育児、家事のような分野も、男女で比べて考えると問題が見えやすい分野かもしれない。つまり、おおざっぱに男女で考えるほうがうまくいく分野もある。

 でも、「男女」の区分が、いつでも適切な区分というわけではないし、ほとんどの分野では、男女の区別はおおざっぱすぎるって僕には思えるんだ。
「てつがくカフェ」は毎日小学生新聞で毎週木曜日に連載中

<5人の哲学者をご紹介>

河野哲也(こうの・てつや)

立教大学文学部教育学科教授。専門は哲学、倫理学、教育哲学。NPO法人「こども哲学 おとな哲学 アーダコーダ」副代表理事。著書に『道徳を問いなおす』、『「こども哲学」で対話力と思考力を育てる』、共著に『子どもの哲学』ほか。

土屋陽介(つちや・ようすけ)

開智日本橋学園中学高等学校教諭、開智国際大学教育学部非常勤講師。専門は哲学教育、教育哲学現代哲学。NPO法人「こども哲学 おとな哲学アーダコーダ」理事。共著に『子どもの哲学』、『こころのナゾとき』シリーズほか。

村瀬智之(むらせ・ともゆき)

東京工業高等専門学校一般教育科准教授。専門は現代哲学・哲学教育。共著に『子どもの哲学』、『哲学トレーニング』(1・2巻)、監訳に『教えて!哲学者たち』(上・下巻)ほか。

神戸和佳子(ごうど・わかこ)

東洋大学京北中学高等学校非常勤講師、東京大学大学院教育学研究科博士課程在学。フリーランスで哲学講座、哲学相談を行う。共著に『子どもの哲学』ほか。

松川絵里(まつかわ・えり)

大阪大学コミュニケーションデザイン・センター特任研究員を経て、フリーランスで公民館、福祉施設、カフェ、本屋、学校などで哲学対話を企画・進行。「カフェフィロ」副代表。共著に『哲学カフェのつくりかた』ほか。

 

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