楽しみながら続ける 防災アクション10【ニュースがわかる9月号】

なぜ世界はあるの? <この世界のしくみ>

 誰もが一度は抱いたことのあるような問いについて、哲学者が、子どもたちとともに考えていくという形で書かれた「子どもの哲学」シリーズの第2弾『この世界のしくみ 子どもの哲学2』(毎日新聞出版刊)。大人も子どももいっしょになって、ゆっくりと考えてみませんか。本書から一部をご紹介します。本書のもとになった「てつがくカフェ」は、毎日小学生新聞で毎週木曜日に連載中です。

目的も理由もない……コーノさん

 世界が存在している理由なんて何もないよ。世界は何かの目的のために作られたわけじゃない。ただ、あるんだ。ただ、存在している。あなた自身の存在もそうだよ。宇宙もあなたも何かの目的のために生まれてきたわけじゃない。

 ただ、生まれてきたんだ。たしかに、牛は人間に食べられて人間の命を支えているけど、牛は人間に食べられるために生まれてきたわけじゃない。同じように、世界そのものには目的も理由もないんだ。何でも、存在するのに理由があるとか、何かの目的が必要だとか考えるのは、間違っていると思うな。

 最初から目的がある存在って、人間が作った道具だけだよ。ノコギリは何かを切るために作られた。コップは液体を入れるために作られた。だから、ノコギリもコップも人間が最初から目的に役に立つように作ったから、目的が備わっている。でも世界も、あなたも、誰かが作った道具じゃない。だから、そこには目的はないんだ。

 もし世界に目的があるとしたら、どうだろう。何かの目的のために存在しているとわかったら、どうする? たとえば、神様が出てきて、私は世界をコレコレの目的のために作ったとかいったら、あなたならどうする? 私なら、わざと、その目的のためにならないことをするね。私は、誰かや、与えられた何かに従うのが死ぬほど嫌いなんだ。

わからないけど理由はある……ムラセさん

 たしかに、「世界が作られた目的がある」なんて信じられない。でも、本当はわからないだけで、何かしらの理由はあるんじゃないかな。

 さっきコーノさんは、道具の話をしてくれた。たしかに道具は目的をもって作られるし、それが存在する理由もはっきりしている。でも、道具以外にも目的があって存在しているように思えるものがある。たとえば、心臓だ。心臓は、血を体中にまわすという目的があって存在していて、体の中でなくてはならない役割を果たしている。どこかをケガすると、ふだんは意識しない、その場所の役割に気づくことがある。薬指とかをケガすると、こんなときにも薬指を使っていたんだ! って思ったりする。ちょっと大げさだけど、ケガによって、その部分が果たしている本来の役割、なんのためにそれがあるかという理由に気づくことができるんだ。こう考えると、道具だけでなく、心臓や他の体の部分にも、普段は意識しないけれど、ちゃんとした目的があるし、それが存在する理由があるように見える。

 この考えは、道具や体の部分だけじゃなくて、牛やあなた、現に存在しているすべてのものに当てはめることができる。だって、現に存在しているどんなものだって、何らかの役割を果たしているからだ。もちろん、目的や存在している理由はわからないことが多いだろう。でも、そのことは、目的や理由がないことの証拠ではない。ケガしたときに初めてその役割や目的に気づくように、それが失なわれたときに初めて明らかになるのかもしれない。別の言い方をすれば、どんなものにも存在するのに必要なだけの理由が隠されているということだ。それは、もちろん、世界だっておんなじだ。

 でも、世界の場合はなくなってしまうと、僕たちもいなくなってしまうから、理由や目的があったとしても、それが何かは永遠にわからないものなのかもしれないね。

そもそも「世界がある」とは?……ゴードさん

 目的や理由を考える前に、そもそも、「世界がある」ってどういうことなんだろう。私たち人間はみんな「世界」という一つの入れ物の中で生きていて、動物も植物も、建物も道具も乗り物もみんなこの入れ物の中に入っているのかな。でも、もしかしたら、そう思っているのはあなただけかもしれないよ。

 見たこともない国や、会ったこともない人々って、本当に存在しているのかな。もちろん、テレビや新聞やインターネットで見たことがあるだろうけれど、もしかしたら全部ウソかもしれない。学校で教わったことも、自分で確かめたわけではないから、本当かどうかわからない。

 それに、いまあなたは建物の中にいるだろうけれど、ドアの外には道路やお庭があるって、本当かな? もしかしたら、あなたがドアを開けるたびに、神様が外の景色をあなたに見せているだけかもしれない。

 見たこともないものが本当にあるってことも、あなたと私に見えている世界が同じだということも、100パーセントは信じられないんだ。私が存在すると信じている「この世界」なんて、本当は、私の頭の中にしかないのかもしれない。


「てつがくカフェ」は毎日小学生新聞で毎週木曜日に連載中

<5人の哲学者をご紹介>

河野哲也(こうの・てつや)

立教大学文学部教育学科教授。専門は哲学、倫理学、教育哲学。NPO法人「こども哲学 おとな哲学 アーダコーダ」副代表理事。著書に『道徳を問いなおす』、『「こども哲学」で対話力と思考力を育てる』、共著に『子どもの哲学』ほか。

土屋陽介(つちや・ようすけ)

開智日本橋学園中学高等学校教諭、開智国際大学教育学部非常勤講師。専門は哲学教育、教育哲学現代哲学。NPO法人「こども哲学 おとな哲学アーダコーダ」理事。共著に『子どもの哲学』、『こころのナゾとき』シリーズほか。

村瀬智之(むらせ・ともゆき)

東京工業高等専門学校一般教育科准教授。専門は現代哲学・哲学教育。共著に『子どもの哲学』、『哲学トレーニング』(1・2巻)、監訳に『教えて!哲学者たち』(上・下巻)ほか。

神戸和佳子(ごうど・わかこ)

東洋大学京北中学高等学校非常勤講師、東京大学大学院教育学研究科博士課程在学。フリーランスで哲学講座、哲学相談を行う。共著に『子どもの哲学』ほか。

松川絵里(まつかわ・えり)

大阪大学コミュニケーションデザイン・センター特任研究員を経て、フリーランスで公民館、福祉施設、カフェ、本屋、学校などで哲学対話を企画・進行。「カフェフィロ」副代表。共著に『哲学カフェのつくりかた』ほか。

 

画像をクリックするとAmazonの『この世界のしくみ 子どもの哲学2』のページにジャンプします