スクールエコノミストは、私立中高一貫校の【最先進教育】の紹介を目的とした「12歳の学習デザインガイド」。今回は武蔵中学校を紹介します。

きら星のごとく多彩な卒業生を輩出。そこから見える武蔵の人間教育の矜持
<3つのポイント>
①個人差の大きい「成長期」を辛抱強く見守り、生徒の飛躍を待つ。
②「 守破離」で学力とともに人間力を育み、「自調自考」を実現。
③私利を超えた生き方で輝き活躍する武蔵卒業生たち。
男子の成長期と大人のサポート態勢
創立以来、「東西文化の融合」「世界に雄飛」「自ら調べ自ら考える(自調自考)」を教育の三理想とする武蔵高等学校中学校。同校は「大学進学は通過点に過ぎず、その先の長い人生で何を成すのかが重要である」という価値観を大切にしている。
また武蔵生に多くに見られる学力の『成長期』における個人差への適切な対応にも注力する。校長補佐の高野橋雅之教諭は、生徒の成長は徐々にではなく、突然、飛躍的に起こることが多いと指摘したうえで、「生徒たちは可能性のかたまりであり、自ら育つ力を持っている。その可能性を信じ、『ブレイクする瞬間』を辛抱強く待つことが大切」と語る。
しかし、子どもたちに対する保護者の期待は非常に大きい。その期待と生徒自身が目指すものや興味・関心の間にズレが生じることで、勉強への意欲を失ってしまう生徒もいる。こうした状況に大きく寄与するのが、創立以来、男子校として長年蓄積してきた武蔵の教育経験と、活躍する卒業生の存在だ。例えば、「A先輩も高1から成績が急激に上がった」など、卒業生の在学中のエピソードを引き合いに出して励ますこともある。また、担任や部活顧問、専門のカウンセラーが随時生徒と1対1で向き合う体制を整え、とにかく生徒の話を聞くことを重視する。「何に困っているのか」「何が嫌なのか」「一番頑張りたいことは何か」といったメンタル面でのサポートが積極的に行われているのだ。
さらに保護者には、学校側が情報を十分に提供するだけでなく、保護者会で上級生の保護者が自主的に下級生の保護者へ体験を交えた助言をすることもあるという。

「守破離」で培う人間力に裏打ちされた学力
武道の理念である「守破離」を学力面で大切にする武蔵。「守」では、基礎基本を身につけさせながら、生徒の飛躍の時を辛抱強く見守る。その後、試行錯誤や失敗を重ねながらも前進する力を育む「破」の段階に移行する。この時、教員は生徒の未知の可能性を潰さないよう障害を取り除き、刺激に触れさせるサポートに尽力している。高野橋教諭は、「他者や世の中との比較や序列を排し、自分の尺度を持たせることが何より重要。目標設定は外的な基準ではなく、内なる基準に根ざしたものであるべきだ」と語る。また、武蔵の全教員は「刺激に触れさせ、興味や関心を引き出す授業」をすることに使命感を持っているという。そして「破」で見出し、培った力は、最終段階の「離」で自らが追求したいものへと全力で活用され、自立へと繋げていく。
「『離』に到達すれば、学力だけでなく人間力も身につく」と語る高野橋教諭は「武蔵生の教育は、いかにモチベーションを引き出すかに尽きる」と断言する。学びには、圧倒的な知識と教養、揺るぎない「自分軸」が不可欠だが、「学びたい」という気持ちを引き出せれば、生徒は「自調自考」のエンジンで大きな飛躍を遂げる。「守破離」は、まさに武蔵の人間教育の根幹を成しているようだ。
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