スクールエコノミストは、私立中高一貫校の【最先進教育】の紹介を目的とした「12歳の学習デザインガイド」。今回は山梨学院中学校を紹介します。

好奇心と先輩を超えようとする意欲が、発想力を育み驚きの進化をもたらす
<注目ポイント>
①入学直後から始まる独自メソッドによる探究学習。
②探究から研究への進化を促す教員の関わりと仲間からの刺激。
③勉学も部活動も校外活動も奨励し、一人ひとりの夢を後押し。
山梨学院独自の探究の学び
山梨県甲府市にある山梨学院中学校。東大、京大、国公立大医学部をはじめとする国内の難関大学だけでなく、海外の大学へも生徒を送り出している。なぜこれだけの成果を生み出せるのだろうか。その理由の一つが、入学直後から始まる「パーソナルプロジェクト」にある。
これは、山梨学院が長年重視してきた探究活動にIBの要素を盛り込んだ独自のカリキュラムである。正規の授業として毎週土曜日に行われる。生徒は自分の興味関心に従ってテーマを決め、1年間をかけて探究して行くのだが、教員の関わり方にも特徴がある。例えばテーマ設定。活動の胆とも言える重要な過程だが、1年生には「何をしたらいいかわからない」という生徒も少なくない。そこで「好きなものは何?」「どんなときにおもしろいと思う?」など他愛ない会話を繰り返しながら糸口を見出し、興味関心を掘り起こして、『自分はこんなことに興味があったんだ!』という生徒自身の気づきにつなげていく。
また、生徒が見つけてきたテーマや研究方法に見直しが必要なケースでも、否定することなく、常に肯定しながらその先へと導く。
活動が始まってからも生徒任せにはしない。個々の状況に目を配り、自然、科学、工学、人文、歴史など、幅広い分野に及ぶ様々なテーマを、全教員がチームとなってフォロー。長期にわたるだけに躓きや迷い、意欲や集中力の低下が見られることも珍しくないが、そのような時こそが成長の機会と捉え、多角的な視点から助言を与え、自信を持って活動に取り組めるよう背中を押す。
その結果、生徒は自身の興味関心が探求のテーマとして真に成立することを実感しつつ自発的に探究活動に勤しむようになり、長期休暇を利用して関連施設に足を運ぶ、アンケートを通じて統計的な調査を行う、実験や栽培・飼育を行う、製作するなど、実に様々な手法を用いて、各々の探究のゴールを目指すようになる。

探究から研究への進化を促す数々のしかけ
一方、探究で得た成果は最終的に論文にまとめるのだが、その際にアカデミックスキルを徹底させ、大学でも通用する研究手法や論文作成のマナーを習得させるのも大きなポイントだ。教員はその評価をルーブリックに基づいて行うとともに、裏に隠された生徒の努力にも目を向け、認める。
活動の締めくくりは、新たに資料を作成してのプレゼンテーション。クラス発表、学年発表を経て年度末には代表者による全校発表が行われる。優れた探究には全校から惜しみない賞賛が贈られると同時に、「こんな研究ができるのか」という気づきが新たな発想を生み、「自分ももっと…」という意欲につながる重要な成長の機会ともなっている。
「この取り組みの最大の目的は物事を深く知りたいという探究心を育むことですが、それ以外にも、自己肯定感の向上や発想力の進化、視野の広がり、仲間との絆など、実に多くの財産を生徒たちにもたらしてくれます。1年次に経験した自身の興味への探究が、2年、3年と経過するなかで研究へと進化し、好奇心から始まった活動が、キャリアへとつながる例も珍しくありません」と吉田正校長。奇抜な発想に驚かされることも多いという。
昨年度も耐震・免振・制震の構造を分析して、揺れない建築物の制作に取り組んだ生徒や、ウールをリサイクルするために、羊毛を使って花を咲かせることに挑戦した生徒がいた。過去には、1年次にロケットの打ち上げに挑戦した生徒が、2年次に高度を求めて二段ロケットを製作し、3年次には付加価値をつけ、カメラを搭載したロケットで空中撮影をするまでに研究を深化させた例や、ぶどう栽培を通してジベレリン処理の方法や時期によって収穫時期をずらす研究をした生徒が、東大農学部に進んで関連する研究を続けている例もあるという。
こうした活動に対し、同校では、PTAの寄付による教育振興基金を設立し、自らの発想を「やってみたい」と訴える生徒への資金的な支援も始めている。
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