10代のうちに強くする! 骨のチカラ【月刊ニュースがわかる5月号】

会社員はなぜネクタイをつけているの? 【疑問氷解】

Q なぜ会社員はネクタイをつけているのか(長野県、小6)

歴史が生み出す「きちんと感」

 A ネクタイを着けていない状態を指す「ノーネクタイ」という言葉があるほど重要なのはなぜか、文化学園大学でヨーロッパの服飾文化を研究する北方晴子教授に聞きました。

 17世紀のフランスで、シャツ、上着、ベスト、ズボンに、ネクタイの始まりと言われる「クラバット」というスカーフ状のものの組み合わせが登場し、現代のスーツにつながるスタイルができました。このスタイルはかなり長い間、男の人が仕事や改まった場に着ていくものでした。今もスーツはきちんとした服装と見なされ「相手にまじめなイメージを与えることができる」と北方さんは言い、信用が大切な仕事の場でスーツを着る人が多くいます。

 最近は温暖化対策のためにネクタイをしないこともありますが、ネクタイはスーツのセットの一つなので、ネクタイのみをしないということは考えられませんでした。1974年の毎日新聞には、勤めていたアメリカの高校を、ネクタイをしなかったために解雇された教師の記事が載っています。学校を相手に裁判を起こし、ノーネクタイで裁判所に行ったところ、裁判官から「何さまだと思っているのだ」と怒られたとあり、ネクタイの重要度が高かったことが分かります。北方さんは「70年代までは、女の人もスニーカーをはいて出かけることが考えられなかった時代でした。男性の服装のレパートリーは少なく、男の人が外に着ていく服と言えば、極端に言えばゴルフウエアかスーツしかありませんでした」と話します。スーツの占める割合が高かったからこそ、ネクタイをしないという逸脱が許されにくかったと指摘します。

 ネクタイの始まりのクラバットはクロアチアに起源があります。クロアチアの騎兵隊「クロアット」が、首を守るためにつけていたスカーフが、フランスの国王ルイ14世の目にとまり、薄い素材でできたスカーフを首に巻くのが流行しました。クロアットがなまって「クラバット」と呼ばれ、これは今でもフランス語でネクタイを指す言葉です。

 日本の服装史について研究する文化学園大学の福田博美教授によると、日本へは幕末にネクタイが入ってきました。1867(慶応3)年に福沢諭吉が書いた「西洋衣食住」の中に、「襟締(子ッキタイ)」の記述があります。洋服の必要性を感じた福沢が、洋服の着方からトイレの時の脱ぎ方まで解説しています。明治時代にまず男性の仕事着として洋服が広がり、大正時代には男性会社員の仕事着としてスーツとネクタイが一般的になりました。それ以降、戦時中を除き、「スーツにネクタイは男性の身だしなみとして用いられています」と福田さんは言います。【毎日小学生新聞編集部・田嶋夏希】

(毎日小学生新聞2023年1月30日掲載)

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