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水道水から「PFAS」 どうして心配なの?【ニュース知りたいんジャー】

みんなが毎日飲んでいる水道水やミネラルウオーターは、品質が厳しくチェックされています。そのチェック項目に来年から、体に悪さをする恐れのある化学物質「PFOS(ピーフォス)」と「PFOA(ピーフォア)」が加わる予定です。各地の水道水から検出されたためですが、なぜこのようなことが起きているのでしょうか。【山根真紀】


 ◇PFOSとPFOAって似てるね。何なの?

 PFOSとPFOAはそれぞれ、自然界に存在しない人工の物質「有機フッ素化合物(PFAS)」の一つです。PFASは1万種類以上あるとされ、中でもPFOSとPFOAはいろいろな物に使われてきました。水や油をはじく、熱に強いといった性質があるため、ハンバーガーなどの包装紙や、水をはじく「はっ水加工」の服やくつ、飛行場で使う泡の消火剤など、日用品にも産業用にも重宝されたのです。
 しかし、自然界で分解されにくく、環境の中に長く残り、生態系(生物とそれを取り巻く環境)や人間に悪さをするのではないかと言われるようになりました。開発したアメリカの化学メーカーは2000年、環境や生物への影響を理由に製造をやめると発表。国際的な条約でPFOSは09年、PFOAは19年に、規制の対象になりました。今では日本を含む各国が、製造や輸出入を禁止しています。


 ◇製造してないのに水道に?

 日本では2010年にPFOS、21年にPFOAの製造、輸入が原則禁止されました。また、20年には水道水1リットルに含まれるPFOSとPFOAの値を「合計で50ナノグラム以下(ナノは10億分の1)」とする努力目標を定めています。
 こうした状況で、国が水道水のデータを全国3755の水道事業者から集めたところ、20~23年度は12都府県の14事業者でこの目標値を超えました。24年度は9月末時点でゼロでしたが、目標値より少ない値は332事業者で検出されました。検査をしていない事業者を含め、自衛隊基地・駐屯地の専用水道、大阪府の工場近くの地下水、岡山県の浄水場、栃木県の井戸水などで目標値を超えていたことが相次いで分かりました。

住友電工ファインポリマーの本社(下中央)。
奥は泉佐野市街と関西空港、大阪府熊取町(共同通信社ヘリから)●●奥が西北西●●


 ◇どこから来て、水に混じったんだろう?


 「過去に使用されたものがまだ残っていたり、広がったりしたと考えられます」。そう話すのは、20年以上、PFASの調査・研究に取り組む京都大学大学院の原田浩二准教授です。原田さんは、水道水や井戸水から高い濃度で検出された場所が▽フッ素樹脂を取り扱う工場▽自衛隊やアメリカ軍の基地▽ごみの埋め立て処分場―――に近いというケースは珍しくないと言います。
 多くの産業で利用されるフッ素樹脂は、かつては製造する時にPFOAが使われていました。また、基地ではPFOSを使った泡の消火剤が使われていました。「近くで使用していた、廃棄していたという物の流れの中で、汚染は生じます。川に流れた物は海に流れつきます。一方で、土壌や地下水の中ではかなりゆっくり動き、今後さらに範囲が広がる恐れがあります」(原田さん)


 ◇体にどんな影響があるの?


 世界保健機関(WHO)の下にある国際がん研究機関は、PFOAは「発がん性がある」、PFOSは「発がん性がある可能性がある」としています。これは、がんという病気になるリスク(恐れ)を高めるという意味です。
 国内では、水道水や地下水の高い濃度での汚染が分かった地域で住民の血液を調べると、血液からも高い濃度で検出されました。一方で、血液の中に含まれる量がどれくらいなら健康に影響が出るのかは、はっきりしていません。
 原田さんは「高い濃度で含まれている水を長期間飲むと、病気になるリスクが高くなると考えられています。将来、悪い影響が出ないように水道水を調べ、高い濃度が出た所では対策をする必要があります」と話します。来年4月からは、PFOSとPFOAが、水道法という法律で定められている「水質基準」の検査項目に新たに加わり、検査が義務になります。今は努力目標とされている「1リットルあたり合計50ナノグラム以下」の基準を超えた場合、水道事業者は原因を見つけて改善しなくてはなりません。


 ◇使わない工夫もあるよ


 PFASはとても分解されにくいことから「永遠の化学物質」と呼ばれます。環境の中に長く残り、その広がりは北極圏にすむホッキョクグマからも検出されたほどです。地球の環境のためにも、私たちを含む生き物のためにも、世界の国々が協力して、これからも使わないようにすることが大切です。
 はっ水加工が大事なアウトドア用品の分野では、国内外のメーカーでPFASを使わない製品の開発が進んでいます。化学メーカーでも、PFASを使わない界面活性剤(水と油になじむ物質)が開発され、電子機器に使われる半導体や塗料など、さまざまな用途での置き換えが見込まれています。「PFASフリー」をうたう商品を見かけたら、これまで何に使われ、どうなったのかに目を向けてもいいですね。(2025年03月05日毎日小学生新聞より)