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【ニュースがわかる2024年5月号】巻頭特集は10代のための地政学入門

EU発足から30年【ニュース知りたいんジャー】

1993年11月1日、ヨーロッパ連合(EU)が12か国の体制で発足しました。今年はそれから30年です。現在、加盟国は27か国になり、加盟したい国は増えています。一方で、2020年にはイギリスが離脱しました。ヨーロッパの中で大きな勢力をもつEUは、何のために作られたのでしょうか。知りたいんジャーが調べました。【木谷朋子】


 ◇EUって何?


 ヨーロッパ各国の政治的・経済的な協力を進め、ヨーロッパを一つの国のようにしようとする国の集まり(国家共同体)です。EUとは英語で「European Union」の略称で、European(ヨーロピアン)はヨーロッパ、Union(ユニオン)とは連合のことです。日本語では「ヨーロッパ連合」「欧州連合」といいます。
 本部は、ベルギーの首都ブリュッセルにあります。2021年1月1日の時点で、EUに加盟する国の総人口は約4億4700万人(世界人口の約5・8%)になりました。EUは小さな国の集まりです。加盟国の多くが陸続きでつながっています。
 EUに参加している国同士は、人(労働力・観光客)や物(商品やサービス)、お金(資本)の移動が自由です。そのため加盟国内は、パスポートがなくても互いの国を自由に移動できます。また、加盟国の間で、物を輸入する時にかかる税金(関税)をなくしたことで、自由貿易が実現しました。加盟国間で使う統一通貨「ユーロ」も導入され、多くの国がユーロを使っています。


 ◇なぜ作ったの?

 20世紀に起こった二つの世界大戦が関係しています。ヨーロッパはその二つの大戦の戦場になり、数千万人の死者が出たといわれます。多くの国が、戦争から復興するまでに長い間苦労しました。
 二つの大戦が始まった大きな原因は、経済的な対立と、ドイツとフランスの国境周辺の地下にある石炭と鉄鉱石を巡る争いでした。鉄鉱石は鉄の材料になります。戦後、多くの国々は再び戦争が起こらないよう経済的に協力しようという動きになりました。1952年に作られた「ヨーロッパ石炭鉄鋼共同体(ECSC)」は、戦争を起こした反省から生まれた国際機関です。
 ECSCや、それが発展した「ヨーロッパ共同体(EC)」の頃は経済的な協力が中心でしたが、次第に外交や安全保障など、政治統合を目指すようになり、92年にマーストリヒト条約が結ばれます。そして翌年11月、EUが発足しました。


 ◇通貨(お金)も共通?


 EU統合を実現する上で、通貨の統合も大きな目標でした。
 1999年1月1日、単一通貨「ユーロ」が誕生し、EU加盟国のうち11か国(ベルギー、ドイツ、スペイン、フランス、アイルランド、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、オーストリア、ポルトガル、フィンランド)でユーロを導入することが決まりました。しかし、実際に紙幣やコインが使われ始めたのは2002年からです。それまでは、ドイツは「マルク」、フランスは「フラン」といった自国通貨を持っていました。
 通貨の統合により、加盟国間の貿易で、通貨を交換する割合である為替レートがいらなくなり、価格設定がわかりやすくなって取引が増えました。国境での両替も必要なくなり、旅行者も便利になりました。
 現在のスウェーデンのようにユーロを導入していない加盟国もありますが、現在ユーロを使っているのは、20か国です。


 ◇何か国が加盟しているの?

 現在は27か国です。前身のヨーロッパ石炭鉄鋼共同体(ECSC)に加盟したのは、フランス、西ドイツ(当時)、イタリア、ベルギー、オランダ、ルクセンブルクの6か国でした。その後、ヨーロッパ共同体(EC)の頃に、イギリス、アイルランド、デンマーク、ギリシャ、スペイン、ポルトガルが加盟しました。
 EU発足後、2004年には「バルト3国」と呼ばれる小国や東欧諸国といった10か国が一斉に加わるなど、加盟国が増えました。13年にクロアチアが加盟して28か国になりましたが、20年にイギリスが離脱しています。
 現在、アルバニア、北マケドニア、モンテネグロ、セルビア、トルコ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コソボのほか、22年に起こったロシアによるウクライナ侵攻を受けて、ウクライナと、隣国のモルドバ、ロシアと国境を接するジョージアが加盟を申請しています。
 また、EU加盟国27か国のうち22か国が、ソ連(現在のロシア)から国を守るために作った軍事同盟「北大西洋条約機構(NATO)」に加盟しています。


 ◇これからどうなるの?


 EU統合から30年がたち、さまざまな問題も出てきています。
 特に、統合当初からあった加盟国間の経済格差は、移民問題に発展しています。現在、EUでは加盟国間での移民を受け入れる政策がとられています。そのため、豊かな西ヨーロッパの国々で働こうとする経済的に貧しい東ヨーロッパの国々の人々が、もともと住む人たちの仕事を奪う状況が出てきました。また、加盟国からの労働者(EU内での移民)への医療や教育にかかる費用で、財政が圧迫されている国もあります。
 EUの中心国の一つだったイギリスがEUを離脱した主な理由も、移民問題と政治面での考え方の違いでした。他の加盟国でも、離脱を求める声があります。一方でEUに加盟したい国も増えています。今後、加盟国同士の政治面での考え方の違いや経済格差を、どのように解決してEUをまとめていくかが大きな課題です。(2023年11月22日毎日小学生新聞より)