誰もが一度は抱いたことのあるような問いについて、哲学者が、子どもたちとともに考えていくという形で書かれた「子どもの哲学」シリーズの第2弾『この世界のしくみ 子どもの哲学2』(毎日新聞出版刊)。大人も子どももいっしょになって、ゆっくりと考えてみませんか。本書から一部をご紹介します。本書のもとになった「てつがくカフェ」は、毎日小学生新聞で毎週木曜日に連載中です。
いろんな国や政府がある……ムラセさん
国っていうと、日本や中国、アメリカ……。いろいろな国が思いつくね。人によっては、いろんな旗の絵柄を思い浮かべるかもしれない。
こういう「国」には、国境というものがあって、どこからどこまでがその国なのか、場所がはっきりと決められている。そこに多くの人が住んでいる。それに、ちょっと難しいいけど、国には「政府」というものがある。
政府というのは、決まりを作って、その場所でやってよいことと悪いことを決めている。決まりを守らない人は牢屋に閉じ込められたり、罰が与えられたりする。政府は、ほかの国の政府と話し合いをしたりもする。学校も政府が作ったものが多い。いろいろな仕事をするために、政府は国にいる人たちからお金を集めている。税金だね。その税金を使って政府は国の中や外でいろいろなことをしているんだ。
でも、なんでいろんな国や政府があるんだろうね? 一つにしちゃえばいいのにね。
国は小さい方がいい……ゴードさん
ムラセさんは、国や政府は世界に一つでいいと思うんだね。私は、それはいやだな。むしろ逆に、いまの日本よりもずっと小さな国がたくさんある方がいいと思う。なぜなら、自分が従わなければならない決まりが、どこか遠いところで決まってしまうのはいやだから。想像しやすくするために、学校の決まりに置き換えて考えてみるね。クラスのルールを決めるときは、学級会で勇気を持って発言すれば、自分の意見を聞いてもらえる。
でも、学校全体のルールはどうかな。児童会の会長や委員長でなければ、なかなかルール決めに関われないことが多い。もしも、「この県の小学校全体のルールを決めましょう」ということになったら、どうなるだろう。どこか遠くの地域の小学校で、勝手にルールが決められていても、よほど気をつけていなければ気づかないかもしれない。
国が広くなり、人が多くなると、全員で話し合うこともできないし、ひとりひとりの意見を反映させるのは難しくなる。だから、国はなるべく小さい方がいいと思うな。
国が小さくなると…… ツチヤさん
ゴードさんは、国はなるべく小さいほうがいいって思うんだね。でも、国が小さくなるってどういうことだろう?
たとえば、国が新しい決まりを作ったとき、それにどうしても賛成できない人たちがその国を飛び出して新しい国を作ったら、国は小さくなるね。実際、アメリカは、もともとはイギリスからそんなふうにして飛び出して作られた新しい国なんだ。あと、みんなとは違う別の意見を持っている一部の人たちを追い出しても、国は小さくなる。
そうやって、新しい国をどんどん作って、国を小さくしていけば、同じような意見をもつ人たちだけでまとまっていけるかもしれない。ゴードさんが言っているように、国のルール作りにも関わりやすくなるかもしれないし、そのことで国を身近に感じられるようにもなるかもしれない。でも、あなたはそういう国に住みたいかな? 僕はいやだな。だって、そんな国だと、みんなと違う意見を言ったりしたら「だったらこの国から出ていけ!」ってすぐに言われそうだもの。いろんな考え方の人たちが住んでいて、困ったことが起きたらみんなで話し合って解決する、そういう国の方が実は住みやすいんじゃないかな。
★「てつがくカフェ」は毎日小学生新聞で毎週木曜日に連載中
<5人の哲学者をご紹介>
河野哲也(こうの・てつや)
立教大学文学部教育学科教授。専門は哲学、倫理学、教育哲学。NPO法人「こども哲学 おとな哲学 アーダコーダ」副代表理事。著書に『道徳を問いなおす』、『「こども哲学」で対話力と思考力を育てる』、共著に『子どもの哲学』ほか。
土屋陽介(つちや・ようすけ)
開智日本橋学園中学高等学校教諭、開智国際大学教育学部非常勤講師。専門は哲学教育、教育哲学現代哲学。NPO法人「こども哲学 おとな哲学アーダコーダ」理事。共著に『子どもの哲学』、『こころのナゾとき』シリーズほか。
村瀬智之(むらせ・ともゆき)
東京工業高等専門学校一般教育科准教授。専門は現代哲学・哲学教育。共著に『子どもの哲学』、『哲学トレーニング』(1・2巻)、監訳に『教えて!哲学者たち』(上・下巻)ほか。
神戸和佳子(ごうど・わかこ)
東洋大学京北中学高等学校非常勤講師、東京大学大学院教育学研究科博士課程在学。フリーランスで哲学講座、哲学相談を行う。共著に『子どもの哲学』ほか。
松川絵里(まつかわ・えり)
大阪大学コミュニケーションデザイン・センター特任研究員を経て、フリーランスで公民館、福祉施設、カフェ、本屋、学校などで哲学対話を企画・進行。「カフェフィロ」副代表。共著に『哲学カフェのつくりかた』ほか。
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