スクールエコノミストは、私立中高一貫校の【最先進教育】の紹介を目的とした「12歳の学習デザインガイド」。今回は東京農業大学第一高等学校中等部を紹介します。

一つの学びを一つで終わらせない。驚くような成果をあげる複合的な学び
<注目ポイント>
①2023年完成の新校舎で気づきや学びを促す共同学習が実現。
②アカデミックな文化背景も学べる東京農業大学との連携教育。
③自分の興味を深掘りし、ストロングポイントを作る課題研究発表。
新校舎完成で学習意欲がますます向上
2025年度より完全中高一貫校となり、ますますの躍進が期待される東京農大一中高。教育環境のさらなる充実を目指し、同校がかねてから進めてきた新校舎プロジェクトは第一期工事が完了し、2023年に新2号館が完成。2026年には理科系の実験室や図書館などを有する新3号館の完成が予定されている。
新2号館には美術室や音楽室などの芸術系の教室に加え、自学自習やゼミ形式の講義、生徒同士のディスカッションなど、フレキシブルに使うことができるラウンジが新設された。ラウンジは学びを広げる場として生徒の日常にすっかり定着。例えば、高2の修学旅行のときのこと。行先別にクラスを横断しての編成だったため、クラスが異なるメンバーがラウンジに集い、旅程の詳細を話し合う企画会議のほか、共に学び合う事前学習が行われた。行先の一つである沖縄班は、民泊や現地に暮らす人々との文化交流のほか、平和学習にも取り組む。社会科の授業で事前に学んだ米軍基地問題と沖縄経済悪化という二律背反の課題について、考察を深めた。
伝統文化の理解を促す中高大連携教育
知的好奇心を高め、学びを加速させる仕掛けはまだある。その一つが隣接する東京農業大学との中高大連携教育だ。中1の稲作に始まり、中2で米、中3・高1で大豆をテーマに学ぶ。いずれも自然科学や民俗学など、科学的・文化的背景にまで踏み込む学習内容となっている。中2「お米の科学」では、東京農大教授の指導の下、新米と古米を比較。大学の研究施設で用いられている顕微鏡で形状の違いを観察したり、指示薬を用いて鮮度を判定したりと、多方面からアプローチ。実際に食べ比べも行う。新米はでんぷんが多く含まれ、古米よりも甘みを感じられることから味が良いとされるが、あるときは3割の生徒から古米の方がおいしいという声があがった。味の差は個人の好みによるところもあるという結果に終始せず、「北海道から東北地方は料理の味付けが濃く、甘さを感じる米との相性が良いことに対し、出汁文化が盛んな関西圏は出汁の旨味をより感じられるすっきりとした味わいの米が合う」など、日本人の主食である米と料理の味付けの地域差の関連性を教授が解説。自分のルーツも味の感じ方に関わっていることに生徒は気付かされる。

中3は醸造科学科の教授から発酵の仕組みを学び、味噌に欠かせない麹の特徴を理解した上で数か月かけて味噌作りに取り組む。春に仕込み、夏の暑さで麹の発酵を促す味噌は、日本の四季を生かした食品であることを実学から体感する。一つの学びを様々な分野の知に拡大できることは、農大一高の教育の強みだ。米や大豆は日本の伝統食品文化でもあり、グローバル化が進む昨今、自国の文化を海外の人に伝える際の知識ともなる。
ほかにも同校では自由参加型の講座「一中一高ゼミ」を実施。中1から参加でき、学年や教科を越えて学ぶことができる。同校の卒業生であり、現役大学院生が講師を務める建築講座やプログラミング講座、東大大学院箱根駅伝メンバーによる走り方講座など、バラエティに富んだゼミが開講されている。
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