「戦後80年企画」80年前の子どもたち【ニュースがわかる8月号】

そもそも「考える」ってなんだ? <この世界のしくみ>

 誰もが一度は抱いたことのあるような問いについて、哲学者が、子どもたちとともに考えていくという形で書かれた「子どもの哲学」シリーズの第2弾『この世界のしくみ 子どもの哲学2』(毎日新聞出版刊)。大人も子どももいっしょになって、ゆっくりと考えてみませんか。本書から一部をご紹介します。本書のもとになった「てつがくカフェ」は、毎日小学生新聞で毎週木曜日に連載中です。

答えを探ること……ムラセさん

 これは、難問だ。僕もいつも、このことを考えているよ。まだ考え中だけど、頑張って答えてみるね。

「考える」ことの特徴の一つは、質問とセットになっているところだ。たとえば、「何がキッカケでこの質問を思いついたんだろう?」と考える。「明日のお昼ご飯には何を食べようか?」と考える。両方とも、質問や問いが始まりになって考えている。このとき、僕たちは、答えを探そうとして考えている。さっき、お昼ご飯のことを考えているって書いたけど、それは一番食べたいご飯という「答え」を探しているってことだ。もう食べたいものが決まっている、つまり、答えが出ているなら考えたりはしない。それを食べに行くだけだ。まだはっきりした答えが出せないからこそ、考えなきゃいけないし、考えることができるんだ。学校のテストみたいに、もう答えがわかっている質問だと、「考える」ことは起こりにくい。だって、答えを探る必要がないからだ。

「答えを探ること」が「考える」ことだとすると、たとえば、どこかへ行って誰かの話を聞くことや、本を読むこと、紙に書いて計算することだって、「考える」ってことになる。だって、両方とも「答えを探ること」だからだ。これって、ちょっと変かな?

自然にできているのに……ゴードさん

 この問いは、実際に会って一緒に「哲学カフェ」をした人が出してくれた問いなんだ。そのときは「どうして生きているの?」という問いについて考えたのだけれど、この問いを出した人も、カフェのあいだ中ずっと「考えていた」はずだと思う。あの日はみんなで、ふだんの生活ではありえないくらい、深くたくさん考えたんだ。それなのに、その後あらためて「そもそも、考えるってどうすることなんだっけ?」と考えてみたら、自分ができていたはずのことが、なんだかよくわからなくなっちゃったんだね。

 自然にできていることなのに、意識するととても難しくなっちゃうことって、いろいろある。たとえば、息をすることや歩くことは、ふだんはうまくできているのに、「どうやって息をするんだっけ」「もっと上手に歩きたいな」なんて考えると、どうしたらいいか、わからなくなっちゃう。考えることも、こういう種類のことなのかもしれないな。でも、どうして難しくなっちゃうんだろう。

進む先が見えないと……  コーノさん

 私たちは、どういうときに考えるかというと、行き先が見えなくなったときだと思うんだ。あなたは毎日学校に行くよね。ふつうは、いつもの道をいつも通りに通う。こうしたときには何も考えない。でも、いつもの道が工事中で通れないときには、「どう行けばいいかな」って、回り道を考える。

 人と話しているときに考え込むときがあるけど、それは話がどう進むのか、それがどういうことになるのかが予想できないから考えるのだと思うんだ。いつも通りのやり方がうまくいっているときには、だから、ぜんぜん考えない。おしゃべりしているときには、ただしゃべっているだけで、相手もあんまり注意深く聞いていないから、話す方も聞く方も考えていない。

 ムラセさんは「考えるとは答えを探ることだ」と言うけれど、私の答えもそれと似ていて、考えるって、どこかに到着しようとしていろいろ試みることだと思うんだ。私たち人間は、言葉を使ってどうやったらいいかって考えるけど、言葉が使えなくても、実際に行動していろいろと試みることはできると思う。だから、言葉が使えない動物でも、行動で考えていると言えるんじゃないかな。


「てつがくカフェ」は毎日小学生新聞で毎週木曜日に連載中

<5人の哲学者をご紹介>

河野哲也(こうの・てつや)

立教大学文学部教育学科教授。専門は哲学、倫理学、教育哲学。NPO法人「こども哲学 おとな哲学 アーダコーダ」副代表理事。著書に『道徳を問いなおす』、『「こども哲学」で対話力と思考力を育てる』、共著に『子どもの哲学』ほか。

土屋陽介(つちや・ようすけ)

開智日本橋学園中学高等学校教諭、開智国際大学教育学部非常勤講師。専門は哲学教育、教育哲学現代哲学。NPO法人「こども哲学 おとな哲学アーダコーダ」理事。共著に『子どもの哲学』、『こころのナゾとき』シリーズほか。

村瀬智之(むらせ・ともゆき)

東京工業高等専門学校一般教育科准教授。専門は現代哲学・哲学教育。共著に『子どもの哲学』、『哲学トレーニング』(1・2巻)、監訳に『教えて!哲学者たち』(上・下巻)ほか。

神戸和佳子(ごうど・わかこ)

東洋大学京北中学高等学校非常勤講師、東京大学大学院教育学研究科博士課程在学。フリーランスで哲学講座、哲学相談を行う。共著に『子どもの哲学』ほか。

松川絵里(まつかわ・えり)

大阪大学コミュニケーションデザイン・センター特任研究員を経て、フリーランスで公民館、福祉施設、カフェ、本屋、学校などで哲学対話を企画・進行。「カフェフィロ」副代表。共著に『哲学カフェのつくりかた』ほか。

 

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