領土って何だろう【月刊Newsがわかる6月号】

スクールエコノミスト2026 WEB【女子美術大学付属中学校編】

スクール・エコノミストは、私立中高一貫校の【最先進教育】の紹介を目的とした「12歳の学習デザインガイド」。今回は女子美術大学付属中学校を紹介します。

 “ゼロからイチ”桁違いの発想力を生む秘密。生成AIの作品にも批判力を発揮!

<注目ポイント>
①自分の「立ち位置と向き」を知る積み重ねが発想力を育む。
②生成AIを題材に「意図を言語化する力」を鍛える国語授業。
③「 共創デザイン学科」で社会課題に挑む女性リーダーを育成。

発想力は自己認識から始まる

 AI時代を迎え、「人間にしかできないこと」への関心がかつてないほど高まっている。既存の枠組みを超える創造性、誰も思いつかなかった発想――そうした力を育む場として、女子美術大学付属中学校が注目を集めている。「桁違いの発想力」を生み出す女子美の教育には、確かな理由がある。

「発想力を鍛える魔法のような方法論があるわけではありません」と広報部主任の並木憲明教諭。「ただ、発想力を特別な才能のように語ってしまうのも違うと思っています。大切なのは、現時点での自分の立ち位置と向きを知ること。自分がどこに立っていて、どちらを向いているのかがわかれば、誰でも発想の大海原にこぎ出していけるのです」。

 女子美では、この自己認識を促すための地道な積み重ねを大切にしている。その代表が「100枚ドローイング」だ。ひと夏にとにかくたくさん描く。画材やテーマは問わない。一見シンプルな課題だが、繰り返し手を動かすことで、描く行為に没頭する心構えが自然と養われていく。そして気づけば、自分がどんな線を好むのか、どんな色に惹かれるのか、思考のパターンが少しずつ見えてくる。

 もう一つが「好きなものファイル」。自分の心に響くものを何でも集めるスクラップ活動だ。服のタグ、パッケージデザイン、雑誌の切り抜き、季節の葉っぱまで、気になるものを片っ端から集め、ファイルしていく。「これらの活動を続けていると、自分でも気づかなかった好みや傾向が見えてくるのです」と並木教諭は説明する。ある生徒は集めた写真を見返したとき、同じカメラマンの作品ばかりだったことに気づいたという。自分の感性が、形として目の前に現れる瞬間だ。また、枕元にノートを置いてアイデアを書き留める習慣を持つ生徒もいる。発想は眠っている間に熟成され、朝ふと浮かぶことも多い。こうした小さな習慣の積み重ねが、やがて発想力の土台となっていく。

 さらに女子美には「画室(アトリエ)性」という美術教育ならではの環境がある。音楽教育では先生と一対一の「レッスン性」が理想とされるのに対し、美術教育ではアトリエという共同空間で複数の生徒が制作する「画室性」が重要とされる。同じリンゴを描いても、表現は一人ひとり異なる。隣の生徒の作品を見て「あの人はこう表現するんだ、では自分はどうしよう」と考える機会が日常的に生まれる。「曲線がきれいだね」「色使いが独特だね」という友人からの声かけで、自分では気づかなかった嗜好性や持ち味が見えることもある。他者の目を通して自分を知る――こうした環境の中で、生徒たちは自然と自分の「立ち位置と向き」を見出していく。発想力とは生まれつきの才能ではなく、自己理解という出発点を明確にすることで、誰もが育んでいける力といえる。

 入試問題にもその精神が表れている。「宇宙人に遭遇したら」という設定で自由に表現させる問題は、正解のない問いに向き合う姿勢を見るものだ。ここでは、どのように状況を読み取り、自分なりの表現へ結びつけていくかという姿勢が見られている。

美術の学びには画室(アトリエ)が必須。女子美には11の美術室がある

生成AIと国語が結ぶ学びの三角形

 女子美ならではの学びとして、注目を集めているのが若手の国語教員による授業だ。生成AIを使って絵を描かせるという、一見ユニークな課題である。

 たとえば「古池や蛙飛び込む水の音」という句をそのままAIに入力すると、日本人が思い浮かべる静かな情景とは異なる絵が生成されることがある。異国の風景や、躍動感あふれるカエルの姿が描かれることも珍しくない。では松尾芭蕉の世界観に近い絵を描かせるには、どのような言葉で指示すればよいか。これを考えるのが授業の核心だ。

 並木教諭は、この取り組みを「次世代型の伝達力を伝える授業なんです」と説明する。「AIへのプロンプト(指示文)をどう書くかを考えることで、意図を正確に言葉にする力が鍛えられます。通常の読解が文章から意味を読み取る作業だとすれば、これは意図を言葉に変換する逆方向の訓練。いわば『超読解力』です」。

 ここで女子美の生徒ならではの強みが発揮される。彼女たちは日々の制作を通じて、自分の中に「こう描きたい」という明確なイメージを持っている。だからAIが生成した絵を見たとき、「自分の意図とどこが違うのか」を的確に読み取ることができる。そして、より意図に近づけるために指示を調整していく。この「意図と結果の差を見極め、改善していく力」こそ、AI時代に求められる新しい能力だ。自分の中に「答え」を持っているからこそ、AIの出力を評価し、よりよく活用することができる。この授業は、読解力・発想力・AIリテラシーという三つの力が結びついた、女子美独自の学びのトライアングルを形成している。近年の入試では、絵のストーリーを考えさせたり、架空の状況で自分を表現させたりと、「正解のない問い」が増えている。言葉だけでなく、非言語的なものを読み解く広い意味での読解とその表現力が求められる時代だ。女子美の教育は、まさにその力を育んでいる。

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