深掘り! 太陽光発電【月刊Newsがわかる9月号】

“Discount, please!“ (値下げして)

 インドという国は独特の匂いがあります。一言でいえばカレーの匂いとでもいいましょうか。オフィスでも街中でもカレー臭が漂っています。シンガポールに「リトルインディア」というインド人街がありますが、そこに入ると独特の匂いがします。すぐにインド人街とわかります。

 さて、アジア事業部の事業部長をデリーの空港で迎えたときのこと。私は先にデリーに入っていて、事業部長がデリー入りされるのを待っていました。夜10時ごろの到着便だったでしょうか。無事に空港に到着されたのですが、お会いするや「お腹の調子が悪い」と言います。「どうされたんですか」と聞くと、「カレーに当たったらしい」と言います。どうやら機内食でカレーを食べたらしく、それが原因のようなのです。事業部長はインドエアで来られたので、日本の航空会社と違って、インド人向けのカレーだったのでしょう。しかし、それにしても機内食でお腹をこわすとは驚きました。結局、インドの薬をあてがい、事なきを得ましたが、インド恐るべし!です。

 インド独特の匂いの話をもう一つ。ページャーは、ディーラーを通してエンドユーザーに販売する商売でした。ディーラーといっても大なり小なりでしたが、大半はパパママショップ的な小さなディーラーでした。ある日、北米事業を経験した海外事業グループの部長さんがインドに出張に来られました。インドのディーラーがどういうものなのか実際に訪問して見てみたいとリクエストされたので、ボンベイ(今のムンバイ)の街中にあるディーラーを何軒か一緒に訪問しました。小さなお店がひしめくエリアで、道もアスファルト舗装されておらず、雨水が残っていました。タクシーを降りて歩き始めるや、その部長は「ちょっとこの臭気には耐えられない。仲君はよく平気でいられるな」と言います。たしかにゴミと雨水(汚水)とカレーの匂いがまざったような独特の匂いでした。私は入り組んだ路地や家が密集するうらぶれた感じのところが好きで、そういうところに行くと、アジアの混沌とした雰囲気が味わえて興味がそそられるのですが、その部長は生理的に受け付けられないとのことでした。結局、5分と持たず、すぐにタクシーに乗って引き返しました。

  インドは大好きになる人と嫌いになる人と二極化するとよく言われます。インフラ系のビジネスを担当している出張者は、カレーの匂いは心地よく、インドが大好きでしょうがないと言います。彼はのちにボンベイの駐在員事務所を設けることとなり、立候補してその駐在員になりました。インド人はFriendlyな人が多く、独特の世界観があり、私にとっても魅力ある国です。匂いもそれほど気になりませんでした。

  ただ、ビジネスの世界での値引き攻勢には辟易しました。ビジネスパートナーのNatelco社のジェーン社長は、おおらかで前向きな人柄でした。ところが、部下のチャンドラは、性格は明るいのですが、ビジネスには厳しい人でした。ジェーン社長が大所で押さえ、わが社にいい顔をし、NO.2のCOOに厳しい話をさせるという戦略だったように思います。

ビジネス討議では、チャンドラの「ディスカウント!」のことばが毎回響きます。一緒にランチを食べていても、「ディスカウント!」、空港へ行く間際までディスカウント攻勢は続きました。まじめで商売熱心なんですが、なかなか妥協しない姿勢にはさすがにしんどいものを感じました。プレッシャーだけでなく、議論が先へ進まないのが一番こまりました。

インド出張から帰国した時は、夢に必ず「ディスカウント!ディスカウント!」のチャンドラの声が鳴り響きました。私には、「ディスカウント!」と言われるよりもインド臭の方がよっぽど楽でした。

著者情報:仲 栄司
大学でドイツ語を学び、1982年にNECへ入社。退職まで一貫して海外事業に携わり、ドイツ、イタリア、フィリピン、シンガポールに駐在。訪問国数は約50カ国にのぼる。NEC退職後、国立研究開発法人NEDOを経て、2021年4月から2025年3月まで神田外語キャリアカレッジ代表として企業向けの語学・異文化研修に携わった。現在はNPO法人「国際人をめざす会」の理事として、企業や学校などを対象に、異文化理解やグローバルコミュニケーションに関する研修・セミナーの企画・講師を務めている。俳句と歴史が好きで、句集、俳句評論の著書あり。