絵本作家のエリック・カールさん(1929~2021年)の代表作「はらぺこあおむし」は、日本語版が出版されてから今年で50周年です。カールさんの歩みを振り返る「エリック・カール展 はじまりは、はらぺこあおむし」が東京都現代美術館(江東区)で開かれています。あざやかな色づかいで世界的に親しまれるカールさんの作品の魅力にせまります。
エリック・カールさんは1929年にアメリカ東部ニューヨーク州で生まれました。両親がドイツ移民だったことから、6歳のときに両親とドイツへ移住しました。当時のドイツはナチス政権の独裁政治が始まり、第二次世界大戦へと向かう暗い時代でした。
少年時代、ドイツにはなじめませんでした。学校は規律がきびしく、言葉も英語からドイツ語に変わったからです。戦後は、ドイツでグラフィックデザインを学び、ファッション誌のアートディレクターになりました。
1952年にニューヨークにもどると、デザイナーやアートディレクターとして活躍し、絵本作家の道へ進みます。「遊べる本であり、読めるおもちゃ」を目指して、生涯で約90冊の絵本を出版しました。
カールさんは、ドイツでの少年時代、美術の先生に絵の才能を見いだされました。お父さんといっしょに森へ行って虫や植物を観察した体験も、「はらぺこあおむし」のような、生きものや自然をテーマにした作品につながったといわれています。「小さな命への興味」が創作の出発点でした。
第二次世界大戦中、きびしい教育や社会の中で育ったことで、「子どもにはもっと自由で楽しい世界を見せたい」と強く思うようになりました。明るくてカラフルな絵本のスタイルに反映されています。アメリカではグラフィックデザイナーとして働き、色やレイアウト、視覚表現の技術を身につけました。
転機となったのは、作家で教育者のビル・マーティン・ジュニアさんが手がける児童書のイラストを描くようになってからです。「くまさん くまさん なにみてるの?」(1967年)の絵を担当したことをきっかけに、絵本の世界に入りました。
「はらぺこあおむし」(1969年)は70以上の言語に翻訳され、世界的なベストセラーになりました。「ごちゃまぜカメレオン」(コラージュ版1984年)、「パパ、お月さまとって!」(1986年)など、たくさんの代表作があります。
絵の美しさや物語だけでなく、読者がページをめくりたくなる「しかけ」が魅力です。具体的な特徴には、「色紙を重ねて作るコラージュ技法」「あざやかで大胆な色づかい」「くり返しやリズムのある文章」「数、曜日、食べ物などを楽しく学べる構成」などがあります。
東京都現代美術館学芸員の八巻香澄さんは「『ちいさいタネ』や『いちばんのなかよしさん』を見て、風景の美しさに衝撃を受けました。楽しんで作られたもようの紙の組み合わせで、野原や山が見事に表現されています。光の当たり方や風の向きで表情を変えるのです」と話します。
カールさんの絵本の原画の多くは、「コラージュ」という技法で描かれています。コラージュは、紙や布、写真などを貼り合わせて一つの絵にする方法です。カールさんは、うすい紙に色をぬったり、もようをつけたりします。その紙を下絵に合わせて切り取って台紙に貼っていきます。最後にクレヨンやペンで細かいところを描き込んで完成させます。
材料となる紙にもカールさんならではの特徴があります。あらかじめ色づけした紙を作っておいて、絵を描くときに紙を選ぶのを楽しんでいたそうです。描くのも、筆だけではなく、スポンジ、カーペットの切れはし、くつの裏など、いろいろな道具を使い、手で自由にもようをつけていました。
カールさんらしい表現は、どんなところを見ると感じとれるのでしょうか。学芸員の八巻さんは、コラージュの紙のもように注目します。「筆ですーっと線をひいたり、スポンジをはんこのようにポンポン押してもようをつけたり、クレヨンでぐいぐい線を描いたり、絵の具をピッピッと飛ばしたり、カールさんが楽しみながら描いたんだろうなあというのがよく分かります。もように注目して、どうやって描いたのか想像してみてください」とアドバイスしてくれました。
(2026年4月22日毎日小学生新聞より)

「パパ、お月さまとって!」をイメージして作られたコーナー=東京都現代美術館で
◆エリック・カール展 はじまりは、はらぺこあおむし
エリック・カール絵本美術館とともに開催する展覧会が、東京都現代美術館(江東区)で7月26日まで開かれています。展示されているのは、「はらぺこあおむし」全ページの原画、誕生のきっかけとなったダミーブック「みみずのウィリーのいっしゅうかん」、日本初公開の原画「いちばんのなかよしさん」、コラージュに使った素材など約180点。
観覧料は一般2300円、中高生1000円、小学生以下無料。休館日は月曜日(5月4日、7月20日は開館)、5月7日、7月21日。
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